電話番号をかけようと、

目を瞑り、ボタンを押そうとした時。


「やっぱり…あんたか」

誰かが、可憐の前に立ち、話しかけてきた。

「え!?」

可憐は、ボタンを押そうとする指を止め、目を開けるのと、

電話がかかってくるのが、同時だった。

「あんた。学生だったんだ。見た目は老けてるけど、どこか幼い感じがしてたんだ」

可憐の目の前に、学生鞄を背中に担いだ…ブレザー姿の男がいた。

可憐は驚いた勢いで、ボタンを押していた。

画面は、話し中になる。

「あ、あなたは…」

可憐は、その男に見覚えがあったけど、どこで会ったのか…

思い出せなかった。

男の顔を、呆然としながら、見つめる可憐を、

男は鼻で笑うと、

「まあ…俺も同じだけどな」

可憐に背を向けて、男は歩き出した。

携帯ショップの前は、結構車の往来が多い、二車線の道路だ。

男は、信号がないところを、車を器用に避けながら、

向こう側へ渡っていく。

車が、クラクションを鳴らしても、お構いなしに。


「誰…」

今の言い方から、あの男は、店のことを知っている。

だけど、あんな若いお客についたことはない。