「ありがとうございました」

携帯ショップから出た可憐の手の中には、2つの携帯。

新しく機種変更したものと…今まで、母親が使っていた携帯…。

新しい携帯より、古い携帯の方が気になった。

シークレットになっていた番号…。

多分、それは…。

可憐は、新しい携帯を手に取った。

シルバーの何の変哲もない、シンプルなデザイン。

二つ折れの携帯を開け、テンキーに指を走らせた。

母親はシークレットにしていたけど、可憐は普通の登録にしていた。

「この番号は…」

(お父さんのだ…)

多分間違いない。

あの母親が、残していたのだから。

母親を捨て、可憐を捨てた男…。



可憐は、携帯を持ちながら、震えた。

かけて、文句の一つも言ってやりたい。

だけど、生まれてこの方…父親と話したことも、顔を見たことすらない。

電話番号を表示しながら、

可憐は、ボタンを押すことを躊躇っていた。

変な汗が出てきた。

(ほ、ほんとに…お父さんの番号なの…)

戸惑いながらも、

可憐は、電話をかけてみたかった。

声だけでも、きいてみたかったのだ。

大きく息を吸い、

可憐は、覚悟を決めた。