可憐には、女の戦いなど

関係ない。

ただ働くだけだ。

席でアホみたいに、はしゃいでも、

どこか虚しさが、自分自身に残る。

それが、正常であり、

そう感じた後、

さらに、感情を操作できる者こそ…この世界のトップに近づいている。

そんなことは、可憐にはわからない。

天性の酒の強さに、生きる為の強さが、

可憐を、他とは違う特別な存在にしていた。

(今、死んだら、負けだ)

その言葉を、可憐は心で繰り返していた。

帰っていく可憐の背中を見つめるのは、

優希だけではなかった。

トレーを片手に、黒服に身を包んだウェイター。

やけに細身だけど、ひ弱な印象を与えない。

シャープな体だ。

少し長い前髪から、覗く切れ長の瞳。


ウェイターは、ほんの数秒だけ、可憐を見送ると、

視線の端に、ボックスから手を挙げるホステスに気付き、

素早い動きで、姿勢を変えると、ボックスへと歩いて行った。

可憐は後に…思わぬ所で、彼を会うことになる。