「サキ…」

耳元で囁くようなサキの言葉に、

お客は、サキに体を寄せようとした。

その時、

タイミングをはかったかのように、ボーイが来る。

「お時間です。どう致しましょうか?」

お客のそばで、跪くボーイに、イライラしながら、

お客は懐から、財布を取り出す。

ここまで、盛り上がっていて、帰れる訳がない。

お客の心理として、ボーイにはむかつくが、

サキにはむかついていない。

それが、席に帰ってくる時間…しなをつくるタイミングを、

サキが、計算していたとしても。

財布から、札を抜きながら、

「延長だ」

ボーイを見ずに、ぶっきらぼうにこたえるお客に、

「ご指名は、そのままで、よろしかったですか?」

「ああ!そのままだ」

ボーイに対して、苛立つお客に見られないように、

サキは、口元を緩めた。

ボーイは、深々と頭を下げ、去っていく。


「チッ」

舌打ちしてから、お客は体勢を戻すと、

「話の途中になったけど…」

仕切り直しとばかりに、お客は、グラスに手を伸ばす。

サキはさっと、グラスを取り、ハンカチで水滴を拭うと、

お客に手渡した。

お客は一口、グラスの中身を飲んだ。