イアン・カーターは旅人である。ひとつの場所に留まり続けることはなく、長くても2ヶ月程で次の旅路へと着く。
今回訪れたこのロカイダ王国は、皆豊かではないが和気あいあいとしていて、旅人のイアンにとって心地よいものであった。彼には家族がいない。人肌恋しくなるときもあるが、イアンは気ままなこの旅が好きだった。

そろそろ日も落ちようかという頃、イアンは宿を探して歩いていた。野宿自体は慣れているものの、こう暑くては眠れそうにない。今夜は、熱帯夜であった。
しばらく歩いていると、ふと雰囲気が変わった。ケバケバしいネオン街のようで、酒や香水の匂いが漂っている。

「ここか・・・」イアンはこの場所に聞き覚えがあった。ここはウォーターヘムロックと呼ばれる華街である。主に娼館が並ぶここウォーターヘムロックは、町で口にすると嫌な顔をされる。もっとも、旅人のイアンにとってはいい観光に過ぎないのだが。
客寄せの媚びた声を適当にあしらっって、ウォーターヘムロックを出ようとしたとき、ヒュッという風切り音と共にいきなり殴りかかれた。イアンはそれを間一髪でかわし、拳がきた方向をキッと睨んだ。
「いきなり殴りかかるとは、どういう了見だ。」
イアンより2.30センチは背が高いであろう大柄の男たち4人が、イアンを取り囲んだ。
いずれも柄の悪そうな悪酔いタイプらしく、皆ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
「お前、旅人だな。」
「しかもまだ小僧じゃあねえか。小僧、お前にはまだ早えよ。」
「さっさとママのところへ帰るんだな!」男たちが大笑いした。
「お前たちが邪魔をしたんだろう。」
「おおっと、随分生意気な口きくじゃあねえか。」
「心配すんな、ちょーーっと金を貸してくれたら、オイタされずに帰れるんだぜ~。」ニタニタと笑いながらイアンににじり寄ってくる。酒臭く、吐き気がした。
「断る。」何故こんな輩に大切な旅費を渡さねばならないのか。
「なんだとお!?」
「調子に乗るな、このガキ!」そう言うや否や、男たちが一斉に殴りかかってきた。イアンは軽々と交わす。
肘鉄を食らわせ、足を引っ掛けて転ばし、殴り抜ける。残る一人を片付け、立ち去ろうとしたとき、ザクッという嫌な音と共に、左足に激痛が走った。
「ウッ!!」思わずうずくまったのと、意識が遠のいたのは、ほぼ同時であった・・。