【栞菜side】
なんか、瞬がもがいてた。見て見ぬふりをしてたけど、ヤバかった。
すっごく面白いっ!
キッチンで笑うのはマズいから、部屋に帰ってから声を殺して笑ってた。
ヤバかった!本当にヤバかった。
あれが学校一のモテモテ男子なのってくらいに顔が……ふはっ!
「あれは、瞬を好きな女の子には見せられない顔だよね」
瞬はわりと学校では、明るくて悩みのなさそうな気配りのできるカッコいい男子って言われてる。
それに、顔もイケメンだし。そのイケメンが崩れるし、思いっ切り悩んだ顔してるし。
おかしかったなぁ、あの顔……。あれは、誰が見ても笑うよ。絶対に。自信あるもん。
私は、机に向かいながらひとり呟いていた。
これでも成績いいんだから、キープしないとまずいの、私。
これ以上迷惑かけたくないしね。
もちろん瞬や慧さんには言わない。言ったら、一緒に住むことになりそうだし。
ママが死んじゃって、少し経ったけど、私はまだあの動画を見ていない。
「どうしよう、このまま見ないのは嫌だけど……」
まだ見られるほどの勇気がない。怖い。
ママが最後に何を言ったのか、私に何を伝えたかったのかも、私には分からない。
「……見なきゃ。ママが言いたいことを、ちゃんと私が知っておくんだ。ちゃんと聞いて、最高の笑顔でまたママと話せるように。愛しているママからのメッセージだから……」
そうだ。ママからの大切なメッセージだから。
私は、この時初めて死んでしまったままと向き合えたような気がした。今までは逃げているような気がしていたから。
そう思った私は、あのメッセージを聞こうとママのケータイを取り出した。瞬に渡されてから、ずっと開けなかった引き出しをようやく開けて。
「……栞菜。ママは、もうあなた、に会えるこ……とはな、いと思うわ。……だから、お願いを……きい、て……?わ、たしの……クローゼ、ットの中……に、手紙……あるから……。読んで、欲しいの……。そこに、私の……気持……ちが詰まって……るから……」
そう言って私に笑顔を向けた母が、画面から姿を消した。最後に向けた私への精一杯の笑顔。私を愛していると言ってくれた時と、同じ顔だった……。
「マ、マ……私、私……うぅっ……」
私は、こらえきれずに部屋でひっそりと涙を流した。今までためていたものすべてを、その涙に乗せて……。
しばらく泣いた後、時計を見るともう深夜の1時を指していた。
「もう、こんな時間か……」
今からでもママの部屋に行ってクローゼット中を探したいけど、この時間からだと無理だろう。
「明日、必ず探すからね……」
私は、見てくれているであろうママにそう告げて、深い眠りに落ちた。
翌日は少し遅く起床。支度をして、すぐママの部屋へと向かった。ママからの手紙を見つけるために。
「確か、クローゼットの中って言ってたっけ……」
私は、ママのクローゼットの中を探した。
「嘘、ない……」
その中には、手紙らしきものがない。
「なんで……」
あきらめちゃダメだ。最後まで探さなきゃ。
そう思ってクローゼットの中をのぞいたとき、奥に取っ手を見つけた。
私はその部分を軽く引っ張った。キィ……という音とともに引き出しが現れた。
その中には、ママからの手紙があった……。
「見つけた……」
私は手紙を持って自分の部屋へ戻った。
私は自分のは屋のソファーに座り、ママからの手紙をそっと開いた。
~大切な私の娘、栞菜へ~
栞菜がこの手紙を手にしたとき、きっと私はもういないのでしょうね。
小さなときに一人日本に残してごめんなさい。あなたからの電話をもらったときにとても後悔したわ。
でも、その時にはそれが一番だと思っていた。あなたが嫌いだったからではないの。あなたを愛していたから、だからおいていった。
慣れないところに小さな子を連れていくわけにはいかなかった。私は仕事で忙しくなってしまうし、近くに居ても一緒に遊んであげることができないと思ったの。
それに、あなたがすごく楽しそうだったから、私はあなたを置いていくことにしたの。
それが私にできることだと思ったから。
でも違ったわね。あなたはずっと寂しかった。それに気付けなかった。ごめんなさい。
学校から連絡が来たときに初めて知ったわ。あなたがイジメられていること。
あなたが私に言わなかったのは、きっと私にこれ以上の負担をかけたくないって思ったんじゃないかしら?私は、相談してほしかった。
でも、そうさせてしまったのは私なのよね。
本当にごめんなさい。
あなたには昔から辛い思いをさせてばかりいたわね。
私がいなくなった今。あなたはどうしているの?また一人になろうとしていない?周りに頼っていいのよ。今のあなたは一人じゃないでしょう?
大丈夫よ。絶対、大丈夫。
私、あなたが自殺しようとしていたことも知っていた。ある男の子が教えてくれたの。
瞬君よ。とても怒っていたわ。慧君の息子さんに初めて会ったときに言われたの。
「若名は、一人で苦しみ続けている。なんで気付いてやれないんだ」って。
瞬君ね、あなたと同じ中学出身なんだって。ずっと栞菜を見ていてくれていたみたいなの。
ある意味、私より栞菜のこと知っていると思うわ。それほど栞菜のことが大好きみたい。嬉しかった。栞菜はこんなに愛されているんだって。私も見習わなければいけないと思った。
子供から親の在り方を学ぶなんて、母親失格かもしれない。
でも、どれだけ離れていても私はあなたを愛している。たとえあなたにもう逢えなかったとしても。それでもあなたを愛しているわ。
だから、栞菜。あなたも誰かを精一杯愛してちょうだい。あなたの周りには、栞菜を愛してくれている人がたくさんいた。
あなたが寂しかった時間を埋められるほど一緒にはいられなかったけれど、私はそう思ったわ。
栞菜の周りはあたたかい。
大丈夫よ。
絶対大丈夫だから、周りを信じて、笑顔で生きてください。
これは、ママからの最後のお願いです。
栞菜が笑顔でいてくれたら、ママは思い残すことなんてありません。
辛いときこそ、悲しいときこそ笑ってください。
あなたの笑顔がその人たちを助けることができると思うわ。だけど、無理をしすぎてほしくもないの。
笑顔は、つくっちゃダメ。心から笑うの。心からの笑顔は、とてもあたたかいものなのよ。そんなあたたかい人になってほしい。
心から笑うには、周りを信用していないとできないことだと思うわ。
信じられる人を、信じなさい。愛してみなさい。きっと笑顔になれるわ。
ママは、とても幸せだった。栞菜が私をママと呼んでくれたことも、慧君との結婚を認めてくれたことも、栞菜が瞬君の話をして幸せそうに笑う姿も。
すべてうれしかったし、幸せだった。
たくさんの幸せをありがとう、栞菜。
次は、あなたが幸せになってほしい。
私は、いつまでも栞菜を見守っているわ。
たくさんの幸せをありがとう、栞菜。
栞菜、自分を愛して?私が愛した栞菜を、愛してくだい。
そうすれば、きっとみんなも栞菜を心から愛してくれて、あなたも幸せになれる。
私は、とても楽しかった。生きていて幸せなことがたくさんあった。
その幸せを、少しでも栞菜に分けてあげられたらよかった。私ばかり栞菜から幸せをもらっていたから。
若名美和子は、宮野美和子は、とても幸せでした。
その幸せは、娘である栞菜が運んで来てくれたものでした。
本当にありがとう。
幸せになってください。
ママは、いつでも栞菜の味方です。
~幸せ者のおおバカママより~
「ママは、幸せなんだ……私も、幸せだよ……ママが、私を愛してくれたから……」
ママが私を愛してくれているから、私はみんなを愛せたんだと思う。
「ママ……うっ……あーー……」
ありがとう。ありがとう、ママ。私も幸せだよ。
大切なことを、教えてくれて、ありがとう。
いっぱい泣いたら、心から笑うから。
今だけは……。
「うわあぁああぁーーーー!」
止まらない涙をひたすら流し続けた。
「Episode11」