「知奈、可愛いかったって、帰ろ」
「……」
こんな言葉に、意味なんてこもっていない。
「ほら早く」
だって、さっき見ちゃったもの。
『さゆ』
そう呼んで髪をかき上げた時、彼女の胸に光っていたネックレス。
あれは悠のものだった。
……わたしは馬鹿だ。
悠はただ、わたしに浮気してるところを見せつけて、妬いてほしいだけだと思ってた。
だから、心の奥底でわたしは愛されてるんだなって安心してた。
でも本当は、悠の気持ちなんかとっくにわたしから離れてた。馬鹿みたい。
……馬鹿みたいって、そう思うのに、わたしは心が弱くて情けない人間だから
「うん、帰ろう」
こんなに浮気をされても、この大きな手を離せないでいる。
嫌われることが怖いから。
置き去りにされるのが、怖いから───