「ねえ、」



ねえ、瀬戸内くん。

わたしが瀬戸内くんって呼ぶたびにわたしは何度、傷つけていたんだろう。


・・・
瀬戸内くん、なんて。

昔はそんな呼び方をしていなかったわけでしょう?


散々、迷惑ばかりかけておいて、そのことを忘れて、そよそよしい呼び方。


本当、嫌になるくらい薄情で、情けなくて、合わせる顔がないのに。



それでも彼は、何もかも忘れたわたしを、一度だって責め立てることはなかった。


そればかりか、苦しい思い出もあるから、思い出さなくていいよって言った。



「……」


その言葉を出せるようになるまでに、一体何度苦しんで、泣いたのだろう。