「知奈」
後ろから、雅稀の声。
優しくて、暖かくて、たったそれだけで安心出来た。
「……ほら、ちゃんと謝って、もう帰ろう」
ギュッと手を握られて、人肌に触れることが出来て、やっぱりあったかくて。
「……うん、もう帰る」
その場から、逃げ出したくて、雅稀の手を取った。
わたしを傷つける彼と
その傷を、癒してくれる彼。
対称的な、ふたり。
好きなのは、愛しいのは、冷たい彼だけど
今日だけは、温かい彼の優しさが、心に沁みた。
好きになりたいって思ってなれるものではないし、そんなんで好きになっても失礼な話だけど
わたしのことをそっと優しく支えてくれる彼を、大切にしたいと思った。
……好きって難しい。