一年前は、この向こう側に一ノ宮先輩が立ってた。
まだお姉ちゃんが好きで、お姉ちゃんだけが世界だった一ノ宮先輩が。
時間だけが刻々と進んで、私の心には焦りが積もる。
「もっとリラックスすれば? 紫苑がびっくりするぞ?」
急に聞こえて来た声に、驚き半分で振り返る。
そこにいたのは赤い髪の不良。
手には容姿と似合わない、ピンクのマカロン。
「沢渡先輩!!」
相変わらず、ちゃんとした登場が出来ない人だ。
「あ、デートですか? 菜子ちゃん、家の前で待ってましたよ。」
「……はぁ? 待ち合わせ、家の前じゃなくて駅前なんだけど。」
え……。
「ったく……。ま、その調子で行けよ。紫苑が待ってる。」
「一ノ宮先輩が?」
「そ。じゃあ、菜子迎えに行って来るわー。」