「ママー、ママー」
どこかで、慧が私を呼んでいる。
「ママー」
遠いようで、すぐ近くみたいな、聞こえ方。
ママ、ここだよと言いたいのに、声が上手く出せない。
身体が鉛みたいに重くて、動かそうとしても、瞼一つ、ピクリともしない。
なんだろう。
真っ暗で。
自分はどこにいるんだろう。
慧は、どこにー?
様々な疑問が頭の中を過って、戸惑う。
が。
「ママー!起きて!!!」
起きて、と聞こえた瞬間、呪いが解けたように、身体が楽になり、重たかった瞼が開いた。
「あ!起きた!おはよーママ!お腹空いた!」
私を覗き込んで、元気にそう叫んだのは、慧だった。
「…慧」
布団で目覚めた私は、寝惚け眼で、息子の名前を呼んでから、はっとした。
カーテンの隙間から溢れる陽の光が目に入る。
「今…何時?!」
ガバッと時計を見て、瞬時に覚醒。
「わぁっ!寝坊!!!」