もう落ちる寸前なのにも関わらず。
公園の桜の葉の匂いが、ふわりと漂っている。
「ーやっぱり。」
いつも白衣姿の彼は、今、ワイシャツにノーネクタイという出で立ちで、したり顔で笑っている。
私はといえば、酸素を欲しがる金魚のごとく、口をパクパクするしかない。
「体調は回復したの?そうじゃなくてもこんな時間にこんな所うろついてたら、色々危ないよ。」
右手の人差し指は、失礼にも相手に向けられているが、何しろ礼儀とかなんとか考えられる状況ではない。
「しっ、んじょう先生こそ、どど、どうして、ここにっ…」
漸く発せられた言葉は、現状況の説明を求めるものだった。
「あ、僕?僕は仕事帰りに知り合いの飲み屋に寄って帰ってきた所。」
「か、か、帰り道…」
今まで考えてた人に考えてないタイミングで会ってしまい、更に帰宅時間についての答えまであっさりと知ってしまった挙句、自宅への御礼はインポッシブルなようだ、との結論が出たが、心が付いていけない。