駅前のハンバーガーショップに誘われたが、下校途中だからとそれを断って、駅から歩いて10分ぐらいのところにある図書館に向かった。

 休憩室のテーブルのひとつに荷物を置き、紙コップのジュースを運びながら、梅宮紀行はうろんそうに美奈子
をちらりと見た。

「なんで君がついてくるかな。てか、あんた誰?」
「あなたが琴子に対して喧嘩腰のような気がしたから、ついてきたの。気のせいかもしれないけど」

 美奈子がそう言い返すと梅宮は、ますますうろんそうに美奈子を見た。

「菊本美奈子よ、琴子のクラスメートの。ちなみにわたしもS高志望。よろしく先輩」

 琴子にみんなの荷物の番をしてもらって、美奈子は自分と琴子の分の飲み物を運んでいるところだ。ジュースで両手がふさがっていたから手を差し出すことはできない。しかし、仮に美奈子が握手を求めたとしても、この先輩は応えてくれそうな雰囲気ではない。

「君もってことは、琴子もS高志望なのかな?」

 梅宮は少し目を細め、聞き返してくる。無意識にだか、わざとだか、彼は琴子をちゃんづけでなく呼び捨てにした。嫌な感じだ。

「例のばか医大の付属高校志望から路線変更したって聞いたけど、本当だったわけだ」
「琴子がどこの高校を志望しようが、あなたにとやかく言われる筋合いはないと思うのだけど」

 冷ややかにそう返した美奈子に、梅宮はくすりと笑って言った。

「君の方こそ、ずいぶん喧嘩腰だね」

 あんたが感じ悪いからでしょう。声には出さず、口の中でだけそう毒づいて、美奈子は琴子の目の前のテーブルにウーロン茶の入ったカップを置いた。

「ありがと、美奈」

 琴子は美奈子を見上げて、気弱そうな笑みを浮かべた。

「で、いいのかな、琴子ちゃん。お友だちに家庭の事情ってやつをバラしてしまうことになるんだけど」

 梅宮は自分も椅子に座り、琴子と美奈子を順番に見た。
 とっさに返事につまる琴子の代わりに、美奈子が言葉を返す。

「どうぞ。わたしは口が固いし、何があっても琴子の味方だから」

 一旦口に出してから、それでも一応琴子の確認をとる。

「琴、琴がわたしがいないほうがいいって思うんだったら、2階の自習室に行って問題集やってるけど」

 琴子は梅宮の方を見て口を開きかけ、黙って手元の紙コップに視線を落とした。迷っている様子の琴子に、美奈子は重ねて言った。

「わたしはここにいたいな」