うつむいて歩く少女の手を、美奈子は少々乱暴なぐらい引っ張りながら、駅に向かってずんずん歩いた。
 気配で琴子が泣きそうな顔をしているのがわかる。

「ヤなやつ!」

 吐き捨てるように美奈子は言った。

「ヤなやつ! ヤなやつ! ヤなやつ!」

 繰り返して唱えたが、返事はない。
 美奈子は少し歩調を緩め、隣を振り返った。

「あんな感じの悪い先輩がいるようじゃ、将来のS高での高校生活も万事薔薇色ってわけにはいかないでしょうね。でも、少なくともわたしは一緒だからね、琴」
「うん……」
「気にしちゃだめよ、あんなやつの言うことなんか」
「うん、ありがと、美奈」

 琴子はちょっと泣きそうな顔をしたまま小さく笑う。

 琴子ちゃん、本番に弱いタイプだろ。
 少年の言葉はある意味的を射ていて、琴子には刺さったかもしれない。中学受験だって、落ち着いて受ければ受からないレベルではなかったのだ。

「大丈夫、高校行っても学年違うんだし、あいつが何言ってきたって気にしなきゃ大丈夫だよ」

 しかし、美奈子の言葉に琴子は首を振って、小さく言った。

「違うの。あたし、知ってたから。パパがあたしのことなんか全然眼中にないんだって。やっぱりそうったんだって改めて思っちゃったの」

「そんなのあいつが勝手に言ってるだけでしょ? どうでもいいじゃない、勝つだの負けるだのって。勝手に言わせておけばいいのよ」

「おとといママがパパに報告したの。あたしがS高に進む予定だっていうこと。そしたらパパ、女の子がそんなことしたって、どうせ年頃になったら成績が下がるんだから無駄だって」

 歩きながら、琴子はぽつ、ぽつと言った。

「ちょうどパパが言ったのと同じこと、言われたんだなって……だから今のは、そのままパパの言葉なんだって……そう思うと、なんだか落ち込むなあって……」

 無理に微笑んだ琴子に、内心の苛立ちをぶちまけそうになって、美奈子は思いとどまる。
 悪いといえば、そもそもは琴子のパパが悪い。本当はそう言いたかったけど、口に出して琴子にそれを言うのはさすがにまずい。
 奥さん以外にも外に女の人がいて、その女の人との間にも奥さんとの子と同じ年頃の子供がいて。そういった男の人について、美奈子はさっぱり理解ができない。理解ができないというよりも、気持ちが悪い。