「そう…なんだ…」
溜息混じりの声。
漆黒の瞳は輝きを失っていた。
「覚えてないんだ…。俺があんだけ必死になったことも、一緒に過ごした思い出も。凜にとっては全部どうでもよかったのかな…」
語尾が掠れ、伊波は自分の足元に視線を落とす。
え…どうしよう…。
何か凄く落ち込んじゃってるよ…。
思い出したいのに、全然記憶が戻ってこない。
私、そんなに忘れっぽい方じゃないのに…。
「俺は忘れられるぐらい、凜にとってはどうでもいい男なのかな…?やっぱり…嫌われちゃってたのかな…?」
『え…?』
最後の方の言葉は、声が小さくてよく聞き取れなかった。
聞き返そうにも、何だか尋ねづらい。
力なく微笑む伊波の周りには、異様で陰気な気配が漂っていた。
「でも…いいかな。それでも」
一人で納得したように頷く伊波。
だけど。
その拳は強く握り締められていて、小刻みに震えていた。