「おはようユイちゃん。よく眠れたかい?」
まるでお父さんみたいなユエさんに思わず私は「はい!!とても」と呟いていた。
「それなら良かったよ。
もう少しで出来るから座って待っていてもらえるかな?」
何が出てくるんだろう…。
私はワクワクしながらもルイさんの隣の席へと腰を下ろす。
シキくんは私の正面へ腰を下ろした。
ルイさんは優雅に紅茶を啜ってシキくんは眠そうな顔で珈琲を啜っている。
似合いすぎてびっくり…。
私は無難に水を飲んでるわけなんだけど…地位の違いと言うか、居る世界を間違えたような感覚。
「はい、お待たせ」
その掛け声と共に私の前へ料理が並べられた。
「わあ…!!美味しそう!!」
出されたのはサンドイッチとポテトサラダ。
ポテトサラダは皆で取り分けれるように大きなお皿に、サンドイッチは各それぞれに2.3切れを置いて色味を合わせるためかトマトも添えられていた。
「さあ、食べようか」
「「「いただきます」」」
私はサンドイッチを一口頬張る。
「…!!」
美味しい…レタスのシャキシャキした食感に、ほんのり甘い卵の味。
優しさと愛情もこもってるような、本当に美味しい味だった。
不意に懐かしく思ったのは何故だろう?
「すごく美味しい…」
「それなら良かった、作った甲斐があるよ」
色んな話をしながら私達は朝食を食べた。
これからどうするか、何を目指すか、どこを通るか…それはもう私には未知の話で途中からは着いていけない始末。
何も、この世界の事すら知らない私が口出しても意味ないし三人に委ねよう。
私はそれについていく、そこだけは変わらないし。
朝食を食べた後は皆で片付けをしてから旅の準備。
準備と言ってもただ持ち物を確認したり地図を見て最終確認、程度のものだった。
ここから一番近い【暗黒の森】を通る事になったらしいが…見るからに暗い森なんだろうなあ。
……ん?
暗いと言えば、さっきから気になっていた事が一つある。
「あの…
まだ外くらいですよ?出発は朝からでも遅くないような…」
そうだ、起きた時からこの部屋に来るまでも、朝食を食べている時も ずっと気になってた。
外がまだ暗い。
夜とまだはいかないけど、それでも薄暗いし。
私も流石に朝まで寝てた、なんて事は無かっただろうし…何をそんなに急いで出ていく必要があるんだろう?
私がその質問をぶつけるとバツが悪そうに皆、眉を顰めた。
…変な質問でもしたのかな私。
「ここは朝が来ないんですよ」
ルイさんが口を開く。
「えっ…?」
朝が来ない?
何それ、それじゃあこの世界はずっと夜のままなの…?
どうして…なんて考えても分かるわけがない。
「ずっと夜です。
星も月も太陽も出ないし登りません…見たのは三年も前の話です」
三年前まではちゃんと朝も昼もあったんだ…それが突然と無くなってしまった。
その理由を探すために旅をしてるのかな、この三人は。
そのついでに私の記憶の事も探してくれるんだ…何だか申し訳ない。
「そう、なんですか…」
「ユイさんが気にする必要ありませんよ。さあ行きましょうか暗黒の森へ」
怖いけど、皆が居るから大丈夫。
私なら大丈夫な気がする。
頑張って行ける、きっと。
「暗黒の森はここから一番近いですが
近いと言っても徒歩だと数時間は掛かるでしょうね。
とりあえずユルシア村へ寄り道しましょうかね」
ゆるしあ村…?
私が不思議そうに首を傾けているとルイさんに変わってシキくんが面倒臭そうに続けた。
「暗黒の森へ向かう道中にある小さな村の事だ。
流石に何も食わず、寝ず何てしてたら倒れちまうだろうが」
なるほど。
その、ユルシア村?に行けば食料も調達できるし寝床も確保できるって事か。
暗黒の森へ行く前にその村によって体調を整えるって感じなのかな?
「うん、分かった」
私が小さく頷いた後に皆も一つ頷き小屋を離れた。
もう戻ることはない、この小屋を。
…思い出とかないのかな、皆は。
私は少しの間しかココに居なかったけど凄く暖かくて優しさに包まれてたような感覚をしたよ。
あの小屋は一つしかない。
例え次に泊まる小屋があったとしても
この小屋は…
ココにしか存在しない。
たった一つの思い出の小屋なのに。
そう、思いながら私は
見えなくなるまで小屋を見つめて
心の中で「さようなら」と呟いた。
私達は今、ユルシア村に居る。
「姉上様ああああ!!!」
「あの、いや…だから…っ!!」
「姉上様にお供致します!
僕の命に代えてでも守りますからァ!」
「そういう問題じゃなくて…!!」
私は思わず三人を見るも三人は見事に顔を背け無視をする。
この人達…薄情者め!!
それにしてもこの子は
私の何を見て姉上様やらお供するやら述べてるんだろうか…。
ユルシア村に来て早々、何か面倒事に巻き込まれてるような気が…はあ。
事は数分前に遡るーーーー
「見えてきたね」
小屋を出てから数十分駄弁りながらも歩いているとユエさんが前を指さして言葉を紡いだ。
その言葉に私は瞳を輝かせながら見てみると
「わ、何だか華やか…」
華やかな村が見えてきた。
仲が良さそうに笑い合ってる人や
動物と一緒に仕事をしている人に
小さな子達が歌ったり踊ったり。
リースで出来た門のような所には色鮮やかな風船が結ばれていて、風に吹かれ ゆらゆらと揺れている。
まるで笑ってるみたいに。
遠目からでも分かる。
この村の人達は互いに助け合って生きてきたんだろうなあって。
「なにかの祭りでもしてるのかな…」
小さく独り言のように呟いた私だったがそれを聞いたシキくんが付け足した。
「この村はいつも賑わってる」
いつもこんなに賑わってるんだ…
なんか、良いなあ。
「さっ、行こうか」
その声と共に再び歩いた私たちだったのだけれどーー
ドンッー
「いたっ…!!」
ユエさんが歩いた途端に前を見ずに走って来た一人の少女がぶつかる。
手に持っていた紙袋を地面に落とし、そこから色とりどりのフルーツが転がり落ちる。
それを拾いながら私は彼女に声を掛けた。
「大丈夫!?」
「すまないね…大丈夫かい?」
どうやらユエさんと被ってしまったらしい。
「いたた…ごめんなさい!!
僕は大丈夫です…あの、えと…
ありがとう御座います」
私の手からフルーツを受け取って可愛らしい笑を浮かべる。
残り全てを拾い終えた時に彼女は瞳を瞬かせ、私達に問う。
「ユルシア村へ…?」
「ああ。」
シキくんがぶっきら棒に呟けば一人、そそくさと立ち去ってユルシア村へ行こうとする。
それに続くように私達も進むもうとしたのだけれど…。
「僕も…っ!!」