魔界姫志ーまかいきしー



「おはようユイちゃん。

怪我はない?大丈夫!?」

私の事を心配そうに見つめるロイに自然と口元が緩んで小さく頷いて見せた。

「よかったぁ~」

ホッとしたような溜息を零せばロイは猫の姿から妖精の姿に変わってユエさんとルイさんの傍に立っている。

「行こう、ユイちゃん」

「私たちと共に」

「長い旅をしてみようか」

三人が私に手を差し伸べて微笑んでいる。
…ここにシキくんが居ればどんなに嬉しかっただろうか。

どうして私はシキくんに避けられてるのだろうか。

私の何が気に入らないんだろう。

「さっさとその手を掴めカメ女」




そんな事を思っていると、ふと聞いた声が頭上に降り注ぐ。

ハッとして見上げると部屋のドアに背を預けて気だるげに立っているシキくんの姿があった。

「シキくん……って、カメ女!?」

待って。
なんで私がカメ女なんて呼ばれてるの!?

「カメみたいに行動遅いだろ」

…ごもっともです。
反論も何もできないけど亀は言い過ぎだよね…うん。

か弱い女の子に言う言葉じゃない。

「そこまで言わなくても…」

「良いから早くしろよ」

「う、うん…」

言われるがまま三人の掌に私の手を置くとそのまま引っ張られて、ポスッとルイさんの胸の中へ。

え、え。
何がどうなってるの!?

そのままユエさんとロイも私を抱き締める。

「「「ようこそ、選ばれし姫君様」」」




綺麗にハモって私に告げる。

「姫君って何よ…

一体ここは、

私は何なのよーーー!!!」

私の叫び声が部屋中にこだましたのは言うまでもない。

相変わらずシキけんは怠そうに、

ルイさんはニコニコと微笑んで、

ユエさんはゆっくり一度頷いて、

ロイは嬉しそうに飛び回って。

この人達はこんなに暖かい。
私は彼らを信じ、これから着いていく。

何があっても必ず、彼らを守ってみせる。

助けてもらった恩を返すためにも。

私はこの人達と頑張らないと。

そう、思っていた。



「…きて、ユイさん」

う、ん…誰だろう…?

「起きて下さいユイさん」

もうちょっと…

「ユイさん」

「…ん、ぅ…?」

重い瞼を上げると目の前には整った顔立ちの少年がいた。

「る、るる…ルイさん!?」

その見知った少年の顔が間近に迫って来ているのを確認して私は思わず飛び起きる。

心臓が…朝からうるさい…。

「おはよう御座いますユイさん」

そう言って笑うルイさんはやっぱり綺麗で。
いや、男の人に綺麗って言葉を使うのはどうかと思うけど、でも…綺麗なんだもん…。

「お、おはよう御座います…」

…あれ?
私いつから寝てたの?

えっと確か昨日は…





覚えてない!?
嘘、知らない間に寝ちゃってたんだ…。

「その様子じゃ覚えてなさそうですね。
昨夜、話をしてからすぐ眠ったらしくて…運んだのはユエですけどね?」

平然と告げるルイさんに私は硬直するしかない。

え、運んだって何?
ここまで運んでくれたのがユエさんって事だよね?

…痩せておけば良かった…絶対重かった…。

でも、そんなこと言ったところでユエさんなら「そんな事無かったですよ」なんて
笑いながら言うんだろうな。

これがシキくんだったら「もっと痩せろ」とか言われちゃうんだろうけど…。

その点ではユエさんで良かったかも知れない。

「…一人で百面相してますよ、ユイさん」

「あっ…すみません…」

「いえ。さて、行きましょうか」



ルイさんって優しいけどたまに冷たい時あるよね。
笑ってるけど無理してると言うか目が笑ってないと言うか。

シキくんもルイさんも昔に何かあったのかな。
もしかしたらユエさんだって何かあったのかもしれない。

でも今は聞かないでおこう。
もっと仲間って言える位仲良くなれた時に…。

「行くって何処に…?」

「旅に、ですよ」

「旅……あっ!!」

そうだった、忘れてた…。


そうだった…早く用意しなきゃ!!

「用意が出来たら朝食にしましょうか」

そう言ってルイさんは部屋を出て行く。
変に緊張するなあ…。

小さな欠伸を一つこぼして私は服を着替え、旅の支度を始めた。

のは良いんだけど、この髪の毛どうにかならないの?
長いし量も多いしはっきり言って邪魔でしかない…。

結んでいいかな?
まあ、ダメだって言われたら外せば良いんだけどさ。

それにしてもロイが言ってたことは本当なのかな。

私が白髪の両眼が違う色だと狙われるとか…さ。
私はただ帰りたいだけなのに…。




…帰りたいだけ?
どこに?何をしに帰るの?
あれ、おかしいな。




そんなことを思いつつ大きな鏡がある方へ腰を下ろして髪を結ぶ為に自分の長い白髪に触れる。

その瞬間ーー



「…っ!?」



『そうか、此処にこんな隠し扉が』


『良くやったぞーー…』


『だが、しかし…どうやって先へ?』


『ーー、分かりそうか?』


『分からなければ仕方ないな…』


『開け方を探ろう』






「なに、これ…」

自分の髪に触れた瞬間めまいの様な感覚がして目の前が暗くなった。

そこからは私の脳に直接語りかけるような男の人の声。

その声は全員同じ、一人だけだった。

映像や姿、形も色もない。
ただ声が聞こえるだけ。

隠し扉…?

それに、あの人は誰かと一緒にいた。
名前を呼んでた気がするのに…そこだけは聞き取れなかった。

夢、なわけないし…

今のは一体…?







不思議で仕方なくて私はもう一度髪を結ぶ為に白髪に触れる。

「……」

…何も起こらない。
さっきのは疲れから変な妄想でも…?