特に土方は目をつり上げてこちらを見ている
そんなに気にしなくても、芹沢は何もしないだろうと華蓮は思った
彼が本物の悪でないことを知っているからである
華蓮はお酒の入った小瓶を持ち上げ、芹沢の持っている器に注いでいく
芹沢はそれを一気に口に運んで飲み干した
これを三回ほど続け、戻っていい、とだけ言われ、席に戻った
華蓮を除く、芹沢の様子を伺っていた者たちは芹沢の行動の意味がわからなかった
ただ、芹沢を間近で見ていた華蓮だけは彼の何か決意をした、尚且つ、悲しげな表情を見逃さなかった
芹沢は今日、自分が暗殺されるということを分かっているのかもしれない、華蓮はそう思った
だから華蓮は芹沢の一つ一つの動作を目に焼き付けた
いい人とは言えなかったけど、明日からこの人に会うことはない
芹沢なりに壬生浪士組を想っていたと知った今は、芹沢が死ぬことに対して非情になることはできなかった
それから何時間か飲み続け、いつの間にか芹沢はかなり酔っていた
「……そろそろワシは帰る」
芹沢が座敷を後にし、それに時間を空けて続くように土方、沖田、山南、原田と出て行った
この4人は今回の暗殺を実行するからである
残された古株のメンバー、特に近藤は複雑な表情をしていた
彼の性格から察するに、例え罪を犯そうが、会津藩から命令されようが今まで共に戦ってきた仲間を暗殺するのは本望ではないのだろう
「ちょっと厠に行ってきます」
華蓮は席を立った
部屋を出て、出口へと急ぐ
本当は行ってはならないのだが、お梅のことが気がかりで、半ば反射的に足は屯所へと向かっていた