恐ろしい虫が背中を這っているような、気持ち悪さと寒気がする。


「あと1人は……藤木悠利」


ドクン……。


久しぶりに聞いたその名前にあたしは体中の血が沸き立つのを感じた。


その名前を聞いただけで、まだ怒りを感じる。


だけどその怒りは当初に比べて随分と小さなものになっていることに、あたしは気が付いていた。


腹を裂かれ赤ちゃんを取り出された時、あの時の感情はもう消えてしまっている。


……どうして?


どうしてその時の感情は消えてしまったのだろう?


ここは土の中。


あたしの憎しみを消してくれるものなど何もない。


それなのに……なぜ?


その答えを教えるように、睦人君が口を開いた。


「藤木って人は電車に衣服が引っ掛かり、そのまま気づかれずに発進した電車に引きずられて死んだんだって。


遺体の損傷は激しく、特に腹部がグチャグチャになっていたんだって。


まるでそこだけミキサーにかけられたみたいにさ。みあお姉ちゃん、よほど藤木って人の事嫌いだったんだね」