「お~い、まどかぁ。なんでそんなに走ってんだよ」

肩で息をしながら美術室に入ると、1年の透馬が声をかけてくる。

「ちょっと、呼び捨てにしないでよね」

透馬は椅子に反対向きに座って、背もたれに腕を乗せ、人なつっこい笑顔をまどかに向けている。

伸ばしている透馬の長い足を、まどかはついうらやましく思ってしまう。

そんなまどかの気持ちに気づいたかのように、透馬はすっと立ち上がるとまどかの横に立った。

「まどかはちんちくりんだから、2年生には見えないんだよな」

そう言いながら、まどかの頭をポンポンとたたく。

その透馬の手を、まどかは思い切り振り払ってやった。

まどかの背は、透馬の肩ぐらいまでしかない。

「うるさいな~。背が低くても先輩は先輩なんだからね」

透馬はそんなまどかの反応がおもしろくて仕方ないのか、くすりと笑う。

その笑い方がまた年上っぽくて腹が立つ。