「酷ぇ。仮にも好きな奴を頭突きするとか」
「今のやさぐれてる皇汰は嫌い」
私がそっぽを向くと、神楽殿の横に置かれていた薪に火が灯った。
メラメラと揺れる火を合図に笛の音がする。
「あ!」
神楽殿の横で、空港に向かったはずの本家のお坊っちゃま、岳理さんが笛を奏でている。
薪の横にはそれぞれリヒトさんとトールさんが。
しぃんと静まり返る中、岳理さんがよく通る低い笛の音を降らせる。
葵の出番をわくわくしていた私は、神楽殿を見つめていた。
「――結愛」
神楽殿を覗き込んでいた私を、皇汰が後ろから抱きつく。
「皇汰……?」
「忘れさせてやるとか言って」
ポトリと落ちた葵の花が、風に乗り神楽殿に吸い込まれていく。