初めて聞いたタクの冷たい声


女は“最低…ッ”と言い残して
その場を離れた


「ユエ」



抱き締められたままの私は
タクが今どんな顔をしているのか
見る事が出来ない



「ユエ」


「タク…ッ」


私が名前を呼ぶと
抱き締める力が一瞬緩んだ

…その瞬間をタクは見逃さなかった



グッと今度はタクに引き寄せられ
私は後ろからタクに抱き締められる形になった




「てめぇ…ッ結映を離せ!!」


再びタクに殴りかかってきた翔琉に
私は


「もうやめて…!!」



力いっぱいに叫んだ

拳を下ろした翔琉は悲しげに笑って言った



「結映は…こいつを庇うんだな」



翔琉はタクに向き直った


「お前は…結映が泣いてた事を知ってたか?結映が辛い思いをしてたって…知ってたか?」



「…」



「お前のせいで…泣いてたんだよッ」



翔琉の言う事を何も言わずに聞くタク
私は顔を見たくても動けない



「…でも、結映はお前を選んだ…だから…もう、用なしだよな…」


呼び止める間もなく
翔琉は走って行ってしまった

…また私は…翔琉を裏切った

咄嗟に走って追い掛けようとした時
タクに強く腕を掴まれた


「行かないで、ユエ」


「タク…」


そう。
私はタクの彼女なんだ

今1番大事にしなきゃいけないのは
タクなんだ


私はタクの方に向き直ると
精一杯の笑顔を見せた


「ごめん…帰ろっか」


「…」


先に歩き出した私
でも タクはその場を動かない


「どしたの…タク?」


「ユエ」


名前を呼んで
ふわっと私を引き寄せると

タクは私に
触れるだけの優しいキスをした


…まるで、別れを惜しむかのような
優しすぎるキスを。