「出るのが遅いわよ、結映」


第一声から
その言葉には冷たさしか篭っていない


「…ごめんなさい」



もう慣れてしまった母の態度
昔こそ辛くて悲しくて仕方なかった態度にも
慣れてしまった


電話の向こうでも
今どんな顔をしているのか
どんな事を考えているのか
分かってしまう

…いつからだろうか
母から愛情を感じられなくなったのは。



「それより。お母さん暫く帰らないから」


「…どこか行くんですか」


「関係ないでしょう」



嗚呼、やっぱり。
私は母に愛されていない。


そう、思うのはいつもの事
でもやっぱり、傷付いてしまうのが人間


…心は確実に傷んでいた


「じゃあ。お金は置いておくから」


そう冷たく言い放たれた言葉

虚しく私の耳には
電話が切れた規則的な電子音だけが
聞こえた


「結映?どした?」


翔琉は私の様子がおかしい事に気付いて
心配そうに顔を覗いた



「…ごめん。一人にして」


私はそう一言だけ言い残して
その場を後にした