トントン……ガチャ

少し控えめにノックし、小さな声で“失礼します”と言うのは、もしかしたら体調不良の人がいるかもしれないという事を配慮した行動だった。

朝だから居なかったが。


「おはよう…あら?雨宮さん。体調は大丈夫?どうかしたの?」

保険医の「氷室 渚乃(ひむろ なの)」

妖艶な声色とオーラ。まるで、これが大人の女性だ!と全身で訴えている様な人。
雫はわりと好きな先生だった。

「名前、覚えて下さったのですか?まぁ、昨日の今日ですもんねー。ご心配おかけしました。あっじゃなくて…絆創膏1枚頂けますか?」


「どうかしたの?切り傷?消毒する?」


「ちょっとプリントで指を切ってしまって…。あっ、お願いします。」


渚乃は手に触れて、「冷たいっ!」と驚いた。雫は「すみません、冷え性なもので・・・。」と返すしかなかった。

そこで渚乃は思い出したように


「そうだ!凌もね、さっき絆創膏貰いに来たのよ?あの人、そんなドジ踏まなそうなのにね?」


「へ?誰ですか?その方?」



「あー。そっかまだ初日だもんね。日向先生よ。あなたの担任。凌っていうのよ。」


雫は驚いて顔を上げた。名前なんてどうでも良かった。


まさか、こうなることを想定してたんじゃ・・・。と考えたからだ。



「まぁ、まだ初日ですから。」

焦りと、少し2人の関係に疑問を抱いたのを、隠したつもりだったが

「あらあら?嫉妬しちゃった?大丈夫よあの人とは何も疚しい関係なんてないわよ。ふふふ…可愛いのね?はい出来た」


言い当てられ、雫は笑う事しか出来なかった。