課長は、帰ってしまった。
 本当は、あがってお茶でもどうぞと言いたかったが、言えなかった。

 さすがにそれは、図々しいかと思ったし言える勇気もない。
 自宅にお茶を誘うだけなのに……意気地がない。
今度会う時は、ちゃんと言えるだろうか?

 ううん。それよりも日帰りで出かけるのが楽しみだわ。
 嬉しくなる気持ちを必死に抑えアパートの階段を上がって行くのだった。

 そして翌日は、普通通りに会社に出勤する。
課長は、いつもの怖い感じに戻っていた。
 でも、私の中では…怖いってより真面目なだけだと思っていた。
  前より全然怖くない。いつもの通り課長にお茶を差し出した。

「課長……どうぞ」

「うむ。ありがとう」

私をチラッと見て言う課長。
 フフッと笑みがこぼれるが我慢してデスクに戻った。
 そうしたら美奈子が、ねぇねぇと声をかけてきた。

「何だか最近…亜季。課長の事ばかり見てない?」

 私の様子に気づきそんな事を言ってきた。
ギクッと肩が一瞬震えた。このままだとバレる……。

「そ、そう…?」

「隠してもダメよ。お見通しなんだから
で?何があったの?」

 ニヤニヤ笑う美奈子を見て逃げられないと思った。
 仕方がなく昼休みにランチを食べながら理由を全て話した。
ちなみにランチは、会社近くのカフェだ。

「なるほど……そういう事があったのね」