でも、シュウの新恋人だと言われた女の子の映像は、
小柄で、セミロングの髪型で、可愛いだけじゃなく綺麗で…。
何処かの会社の娘だって言われていたのは、何となく覚えてる。



バカみたい……。



私の生活の全てはシュウで出来ていて


でも、シュウの中ではとっくに終わってたんだ……



もう待ってる意味なんて無くなったんだ



全てがシュウの為だった



綺麗でいる事も


仕事を頑張る事も


料理も何もかも全てが。



シュウを失った私に


何が残るの?


この肉体さえいらない






もう涙も出なかった



私はテレビをボーッと眺めた。


テレビの雑音が心地良くて



シュウのスクラップ写真を一枚一枚見て、
しっかりと目に焼き付けた。



ねぇ、シュウ
初めてシュウを拾った夜、
シュウをこんなに好きになるなんて思いもしなかったよ。


こんな終わり方もあるんだね


でも私、
テレビで知るんじゃなくて
待って終わりにしたかったな


そしたら
それまでにシュウと終わる覚悟が出来ていたかも知れないじゃない?




もう無理だよ。


もう頑張れないし
頑張りたくない


ごめんね


お父さん


お母さん


紗香


三上さん


ごめんなさい。



私は家に置いてあった薬を全部飲むと、包丁で手首を切り途中でやめた。


怖い……。


その時、
携帯電話が鳴った。


―着信 紗香


シュウのニュースを見て、
心配してかけてきてくれたんだと思った。


でも私は電話には出なかった。


電話に出て何になる?



着信が鳴り終わると、
私はもう一度包丁を握り直し、思い切り手首を切った


鈍い音がして、
血が流れる。


流れて行く血を眺めていると


何だかおかしくなって笑った



人ってこんなに簡単に
命を絶てるんだって
笑えた……



このまま息絶えて
いつか発見されたら、
皆怒るよね?


でもいい。
だって疲れたんだもん


私に疲れた


人生に疲れ…た…


「倫子っ?!」


「……」



目を覚ますと目の前に母親の顔が見えた。


涙で顔がグシャグシャなのが分かる。


ここは何処だろう…?


目が覚めちゃったんだ……


又、あの辛い日々が戻って来た


そう思うと又死にたくなった


何で生きてるの…?


私は点滴の針を外し、ありったけの力でベッドのパイプに頭をぶつけようとする。



「倫子、やめなさい!!」



父親が私を抱き締めて動けなくした。



「死なせてよ…」



目が覚めて初めて出た言葉だった。


気付いたら、紗香も三上さんもいて、皆が泣いてた。



「いい加減にしなさい!皆がどれだけ心配したと思ってるの?!バカな事して…。紗香さんが見付けなかったら、どうなってたと思ってるの?!」



こんな時、父親より母親の方が強いんだ…。


そんなどうでもいい事を考えていた。



「紗香が見付けたの…?余計な事しないでよ」



そう言った瞬間、
母親の手が私の頬を思い切り叩いた。


何で自分がそんな事を言ったのか解らない。


ただ、殴られたかっただけなのかもしれない。



「今、何月何日…?」


「…5月23日よ」



疲れきった顔で母親が答えた。



何だ、たった2日しか経ってないんだ。


どうせ目が覚めるなら、
11月22日が終わってから覚めたかった……。


そしたら余計な事なんて考えなくていいのに



私は空を眺めた。



母親や父親、紗香や三上さんが話し掛けて来ても、
聞こえない振りをして、
ただ空を眺めた。



「じゃあ私、そろそろ帰ります」


「紗香さん、本当にありがとね」


「いえ…。倫子、又来るからね?」


「気を付けて下さいね」


「あっ、僕も帰ります」


「本当にお忙しい中、娘がすみません…」


「いえ、又明日来ます」


紗香と三上さんが帰ると、父親が言った。



「もう会社を辞めさせて、家に連れて帰るからな」


「私…帰んないよ…」



だって、シュウが迎えに来るかもしれない。



「ダメだ。お前だってニュースを見ただろ?だからこんなバカな事を…したんだろ…?」



ニュース…?


あの映像が鮮明に頭の中で甦る


その瞬間、鼓動と呼吸が早くなって私は嘔吐した。


母親が看護師を呼び、処置して貰うと今度は母親が言った。



「お母さんも、今回ばかりはお父さんと同じ意見よ。こんな状態で倫子に1人暮らしなんてさせられない」



「でも私…」


「自分がした事をよく考えなさい」



母親のその一言で私は喋るのをやめた。


母親も父親も疲れきった顔をしていて、
私はただシュウと唯一繋がっている空を見ていた。




どんなにシュウを想っても、もう涙なんて出なくて





私はもう




笑う事もやめた