「お帰りっ!」
そう言ってシュウに抱き付くと、シュウが言った。
「倫子さん、太った?」
「……うん。2キロくらい」
「2キロ?」
「嘘。4キロ」
週に三回の居酒屋通いのお陰で4キロ太ってた。
その後笑いながらシュウは言ってくれた。
「何か綺麗になったね」
凄く嬉しかった。
「私ね、料理の勉強もしてるんだ。お腹空いてない?何か作ろうか?」
「いい。とりあえず座ってゆっくりしようよ?」
「…うん」
そう言ってシュウと一緒にソファーに座り、シュウが話し始めた。
「電話で言ってた話しなんだけどさ」
「…うん」
いきなり話しを切り出すシュウの顔を、まともに見る事が出来なくて、耳だけを傾ける。
「俺が前、刺された時の事を覚えてる?」
「…うん」
あの時はシュウが心配で
本当に心配で……
忘れる訳がない。
「あの時の事を今マスコミが探ってるみたいなんだ。そしたら、多分凄いニュースになって、色々と騒がれるだろうから、暫く会えないと思うし、落ち着く迄は連絡も取らない方がいいと思う」
「……」
言葉にならない
何て言えばいいの…?
「まだおおやけになるかも分からないし、どうなるかも分からないんだけど、急にそんなニュースが出て、俺と音信不通みたいになったら、倫子さん、パニックになるんじゃないかと思って」
そう言ってシュウは優しく笑った。
分かるけど
分かるけど、そうなった時はいつまで待てばいいの?
そんな気持ちと、
言ったらいけない気持ちがぶつかって、
泣くのを我慢するのが精一杯だった。
「どうしたの?」
首を横に振るしか出来ない。
今、口を開くと泣いてしまう…。
「いつもの倫子さんみたいに、思った事を言えばいいのに」
シュウのその言葉に涙が出て、私はその勢いに任せて言った。
「だって…いつまで待てばいいの?」
シュウは少し黙ると、
ゆっくりと口を開いた。
「今、約束をしてから丁度半年くらいだから…2年後の11月22日にしようか」
「2年後の11月22日?」
「うん」
「何で11月22日?」
「覚えやすいから」
そう言ってシュウは笑って、私もつられて笑う。
シュウが日にちを決めてくれた事で、随分気持ちが楽になった気がした。
「でも、それって、もし明日ニュースが出たら、2年後の11月22日まで一切連絡がなくて、会えないって事?」
「それはないと思うよ」
「そっかぁ」
「だからさ、倫子さんは自分の時間を好きなように使って、楽しんでてよ」
「そうだね」
「絶対ここに迎えに来るから」
「うん!」
そう言うとシュウは私に優しくキスをして、
私達は久し振りに愛し合った。
凄く幸せで
凄く満たされて
凄く切なくて
凄く寂しくて
涙が出た
「今日は泊まるの?」
「ううん、無理矢理時間を空けて来たから、なるべく早く戻らなきゃいけないんだ」
「そっか。じゃあ、そろそろ行く?」
「うん」
シュウを送り出し、
部屋で1人になると又寂しさが襲った。
2年後の11月22日まで後何日あるんだろう?
近くなったような
遠くなったような
複雑な気分だった…。
それから私は毎日のように、ワイドショーをチェックして、それ以外は今までのように何も変わらない日々を過ごしていた。
シュウが刺された話しが出る所か、テーマパーク成功のニュースが流れ、
私は又、シュウが遠くなった気がした…。
それから2週間経った頃だった。
―着信 母
「もしもし」
「倫子?来週の日曜だけど、家にいる?お父さんとそっちに行こうかと思うんだけど…」
「んー、エステがあるけどいいよ。変更して貰うから」
「無理に空けなくてもいいのよ?」
妙に遠慮する母親が少し可哀想な気がした。
「大丈夫だって!お父さんともあのままだったし、来てよ」
「…うん」
「じゃあ日曜日ね!」
何かあったのかな…?
でも大事な急ぎの用事だったら、電話でまず言うよね。
―日曜日
シュウと両親が会ったあの日以来に両親が来た。
―ピンポン
「はい」
玄関を開けると、不機嫌そうな父親と困り顔の母親が立っていた。
「お父さん、なかなか連絡出来なくてごめんね」
「そんな事はいい。今日はあのオカマは来ないんだろうな?」
「来ないけどオカマじゃなから…」
私と母親は苦笑いし、
父親はリビングのソファーに座ると、風呂敷に包まれた何かを開け始めた。
「何…?」
父親は黙ったまま風呂敷を開け、一枚の写真を出すと私に見せて言った。
「見合いの相手だ」
「見合い…って誰の?」
「お前のに決まってるだろ?」
「ねぇお父さん…。この前シュウに会ったでしょ?私はシュウが…」
言いかけた時父親が言った。
「あの男じゃ、お前を幸せには出来ない」
「何で?」
「あれから気にかけてテレビとか見ていたけど、お前とは住む世界が全然違うだろ?あんな大会社の息子だか愛人の子供で、マスコミに追いかけられて…」
「でもシュウは…」
「年もお前より六歳も若いじゃないか。他の女に走るか、もし上手く行っても、お前迄マスコミに追いかけられる。だから幸せにはなれないんだ!」