再び彼の子供を宿すなんて、最後にこの部屋にいた時には思いもしなかった。


あの時はただ自分で立つのもやっとなくらい壊れていて、もう自分がこの家系に貢献できないのだと落胆した。


無能なのだと。


でも、この人は・・・・最後まで・・・。



「本当に千麻ちゃんには驚かされる」



響いた声に腹部に落としていた視線を上に戻す。


絡んだのは穏やかな笑みのグリーンアイ。


少し、最後のあの日に似ていると感じて、でも根本的に違うのはその中に悲哀がない事。


だからこそ純粋に柔らかく微笑み返せる。



「で?茜の子供妊娠して、律儀にも俺に『息子さんをください』って言いに来たの?」


「まぁ、・・・【天下の大道寺】のご子息ですから?身分違いにも年上でバツイチな女が無断で妻気取りはマナー違反かと、」


「ははっ、カッコイイね。手だして不誠実にも妊娠させたのは茜の方なのに。あいつは何故だか可愛い孫の報告もしない薄情な奴だし・・・」


「それは致し方ないかと」


「何?千麻ちゃんが口止めでもしてた?」


「口止めするまでもなく、彼は自分が父親になった事実すら知りませんから」



ああ、本日の2勝目。


はっ?と表情を変えた彼にクスリと笑ってお腹を見下ろす。


柔らかく撫で、それでも存在は確かだと示しながら釘止めの言葉。



「あくまでも・・・内密に、」


「・・・・」


「私の来訪も、宣言も、・・・妊娠も、」


「・・・・・まぁ、さすがに事が事だから千麻ちゃんの意思がそれなら俺も口を閉ざすけど・・・・・、でも、何の意図で?」



さすがの黒豹も困惑らしい。


こんな風に白旗振るように問いかけてくる姿に新鮮さも覚えつつ、ニッと口の端を上げると単純に回答。



「・・・・一種の・・・仕返しでしょうか」


「仕返し?」


「・・・許しているんです。でも・・・・あの瞬間をまだ恨んでもいる」



私を一瞬でも疑ったあの瞬間を。


でも・・・許してもいる。


だから・・・微々たる嫌がらせなのだ。


一番には報告しない、私からは教えてなんかやらない。