この人のこんな慌て様は初めて見た。
そしてその慌てる様は酷く彼に類似して、突如の予想外の宣言に喜んでいいのか慌てていいのか分からないようで。
それでも私に関して体調の危惧がないと理解した直後には・・・破顔。
ああ、こんな笑い方もするんだな。
「っ・・・・うわぁ、驚いたけど・・・・、あ、ヤバい・・・本当に・・・胸がざわつく・・・・」
いつだって意地の悪い笑みを浮かべていた顔が今はいい意味で情けないほど崩れた笑みを浮かべて。
滅多に下がる事のない眉尻と隠し切れない程の口元の弧。
それを確認して自分の口元にも噴き出した時の様な笑みでなく、反応に対して歓喜した笑みを浮かべて返した。
「胸がざわつきますか?・・・こんな若くも可愛げもない女がまた嫁として戻る事に不安で?」
「ははっ、俺からしてみたらまだまだピッチピチ?」
「言い方・・・・セクハラですね」
「いいねぇ。・・・本当は明日からでもこの社内でその言葉が聞きたかったのに」
「はっ?」
初めてこの人を突き崩したと優位に浸りながら言葉を交わしていたのに、やはり一枚上手な男だと知る事になる。
吐きだされた意味深な言葉に見事怪訝な反応を返せば、すかさず悪戯っ子の様にニッと笑う姿。
ああ、もう【いつも】の浮上。
悔しながらも言葉の意味を模索して、意地悪なグリーンアイを見つめていれば。
「・・・・また、戻ってこない?」
「・・・・」
「有能な千麻ちゃんの実力はこの会社には必要なんだよ」
「・・・えっと、」
「・・・・と、言おうと思ってたんだけど、そんな内容よりビックリな事実が発覚したから保留だね」
「・・・・・・すみません」
「何で謝るの?むしろ会社として千麻ちゃん手に入れるより、家族として手に入れられる現状の方がずっと嬉しいけど?」
「・・・・・言動もよく似ていらっしゃいますね」
「フフッ、一度気に入ったものは易々と手放したりしないんだよ。俺も茜もね」
独占欲の提示。
そんな笑顔で暗に『逃がさない』と言われているような現状に苦笑いを浮かべ、精一杯の嫌味で防御。
「私の運のつきはこの会社に入社した時ですね」
「嫌だなぁ、それを言うなら運気アップがその時でしょ。だって天下の大道寺だよ?玉の輿だよぉ?」
「人間性に問題がありますから。まぁ、この子には良い反面教師になるでしょうが」
言いながらまだ心もとない存在がある腹部を柔らかく撫でる。