でも目の前の彼ときたら自分の中では満足いく出来らしく、ご機嫌に私の顔を覗き込んで。
そして何かに気がついたように『あっ』と声を響かせ直後に指先が頬や鼻の頭に触れた。
パラッと髪を払う仕草。
それに気がついて目を閉じ従っていれば、おかしそうに小さく笑った彼の声に目蓋を開ける。
「何笑ってるんですか?まさか失敗したんじゃ?」
「ううん、むしろ成功~、可愛いし」
そう言って私に手鏡を渡して自信満々に見つめてくる男。
それを横目に鏡を覗くと、確かにこれと言って失敗は感じられない。
むしろ彼からすればかなりの合格点。
では何がそんなにおかしかったのかと、切りたての前髪を触りながらグリーンアイに問いかける。
「何が可笑しかったんですか?」
「ん?俺の拙い魔法は千麻ちゃんには効果絶大なんだよなぁ。って」
「はっ?」
「だって・・・今素手で千麻ちゃんの顔触ったのに気がついてなかったでしょ?」
「・・・・・・」
これは・・・、
不覚。
確かに言われるまでそれを意識もしていなかったし、言われなければ気がついてもいなかったかもしれない。
そして指摘されれば激しく気まずく、見事彼の策に落ち込んだことへの羞恥。
ムッとして見せても多分肌は正直だ。
熱を持つ肌はきっと赤いと思われる。
これは・・・私の負け。
それを自認している私を当然理解している男は意地悪に微笑んでその手に黒を被せていく。
あっ、つけるんだ。
そんな事をうっかり思って見つめてしまい。
ものの見事に彼のご馳走タイム。
「フフッ、残念そう~。何?もっと触ってほしかった?」
「言い方がやらしいです」
「否定はしないんだぁ?」
ニヤリと勝ち誇り、更に追い詰めんとする嬉々とした表情に、今は否定を返すほど首を絞める。
長年の付き合いで嫌ってほど分かる彼の高揚度。
本来はSっ気強い彼だから今は天下を取ったように私の失態に満足していて。
でもそんな彼に逆転するのは案外私は得手としているのだ。
「・・・・ダーリン」
ちょいちょいと手招きして未だに優越に浸っている彼を呼び寄せると、誘われるままに従って『ん~?』と顔を覗き込んでくる。
単純。
心でそう思って口の端をニッとあげると彼のフードに手を伸ばし、おもむろに掴むと勢いよく引っ張り寄せた。