でも、やはり彼は優しいのだと思い知らされる。



「・・・・・素直でいいね。うん、これもリハビリ効果」


「・・・・すみません」


「・・・・・千麻ちゃんの不安が多少解消する魔法でもかけようか?」



優しく気にするなと反応を返す彼に、それでも申し訳なく謝罪すれば。


少し思考の末に彼お得意の魔法の響き。


それでもその効果が抜群に強い事を何度も経験しているが為に、見事反応して顔を上げれば。


その視界を覆うように広げられた掌。


一瞬ビクリと反応して、でもすぐにその印象の強さに視線が止まる。


正直驚いて確かめるようにグリーンアイを探して見つめてしまう。


絡めば悪戯な揺れ方見せて満足そうに笑うのは理解していたのに。


でも・・・・、


ちょっと、驚いたわ。


今までは手袋で気がつかなかったから。




「・・・・・どう?不安は消えそう?」


「・・・・・意味が分かりません」


「そう?まぁ、いいや・・・魔法の効果は千麻ちゃんの言葉より体の方が素直に応えてくれそうだから」



フフッと笑った彼が再度ゆっくりその手を伸ばす。


切りやすいように切る毛束にそっと触れ、私の抵抗がないと分かると指の間に挟み込む。


そして口元の強まった弧が意味するのは、



『ほら・・・きいた』



そう言いたいんでしょ?


でも確かに彼の示したそれが魔法のように心に作用して安堵し緊張が解けた。


今もチラチラと確認するように視線を走らせてしまう。


髪を抑える左手を。


そして動くたびに光る薬指の指輪を。


もしかして・・・・・、


もしかしなくとも、離婚してもずっとその指輪をつけていたの?


そんな疑問走らせる段階でもうすでに彼の魔法に落ちている。


そんな風にずっと一途に私を想っていたんだから、嫌いになったりしない。


そう言いたくて、示して、私を安堵させようとしたんでしょ?


悔しいかな分かっている。


彼はそう言う人。


己惚れではなく・・・・・私なんかをまだ愛してくれて大切に思ってくれている。


それを再確認させられて、髪に鋏が入るたびに床に落ちる毛束と一緒に不安も切り取られて落ちていく。


時々額に彼の手が触れて、ドキリとはするけど嫌悪はしない。


むしろ・・・・、




「・・・・・・出来た」




気がつけば抱いていた緊張は皆無。


どこか心地よさまで感じていた時間に終止符を告げた彼の声にがっかりしてしまうほど。