策士。
全部全部これを狙ってだったのか。
瞬時に理解してももう遅く、それでも子狡い策にムッとして睨み上げればしてやったりに笑う彼の顔。
「・・・・狡いです」
「何が?切ってもいいって言ったのは千麻ちゃんだ」
そうじゃなくて。
いや、気がつかなかった私も落ち度。
手袋をして鋏を握る事の不便さ、当然外してしかまともに切れる筈もなく。
前髪を切るという事は少なくとも額には彼の指先が触れることになる。
彼の接触を許すことになる。
初めて。
心臓が強く跳ねて、鋏を持つ彼の手をじっと見つめて緊張した。
まるで今から注射でもされる子供みたいに、その瞬間に怯えて恐怖の対象を見つめるような。
彼と言えば「大丈夫」と言いたげな微笑みを携え、ゆっくりと私の顔に手を伸ばして体を近づけた。
彼の左手が前髪に触れる。
「・・っ・・・・」
「・・・・」
「・・・・すみませ・・・」
指の先。
ほんの先が触れた瞬間に髪の毛1本1本が神経のように反応して身を引き顔を下に向けてしまった。
心臓が騒いで煩くて苦しい。
彼に申し訳なくて・・・・痛い。
傷ついただろうか?
呆れる?
お願い・・・・許して・・・・。
「ほらぁ、動いたら失敗しちゃうよ?」
あっけらかんとした彼の声に驚いたけれど同時に重みが引いていく。
その表情はどうなのだろうと顔を上げれば困ったような苦笑い。
でもその意図とすることは感情面に対してじゃなく、動いた事への非難らしい。
「それとも失敗させて本気で100万狙ってる?」
「・・・・・そこまで・・・・悪どく・・ない・・」
「じゃあ、俺を信じてじっとしてて、」
「信じてないわけじゃなくて・・・・その・・・・」
迷う。
それを言う事すら恐くて。
言ったら嫌われそうで。
やっと手にした微々たる時間する自ら壊してしまうんじゃないかって・・・・。
でも・・・、
彼に甘えたいとも思ってしまう。
そしてそんな葛藤を全て理解してを許すように微笑むんだ・・・この緑は。
「・・・っ・・・・すみません。・・少し・・恐い」
素直にそう告げてしまえば安堵と不安の同時浮上。
気が楽になった半面、彼の反応に不安。