言わんとしたいことを確かめるように視線だけ上にあげて、確かにウィッグの時とは違いその額はすっきりしていると確認する。



「な、なんていうか、前髪あると幼く見えてたじゃん?今の千麻ちゃんも勿論大人っぽくて好きなんだけど・・・・・前髪ある方が・・・もっと、俺好みと言うか・・・・」



「言ったでしょう?私は誰かの為に容姿を変えないと」


「でも、・・・・そのロングヘアは俺の為だったんでしょ?じゃあ・・・前髪も作ろうよ」



ニッと笑って決定と言いたげに私を見上げる。


フードから覗くその表情の愛らしさにうっかり押し負けして言葉を返しそこなった。


その瞬間に勝敗は決まり、すべては彼の望むままになってしまうに。


結局【彼好み】に染められるのだと諦めて、数回頷くと鋏を取りに彼を振りほどいた。


前髪くらいなら自分で切ってしまおうと大胆な選択。


ご機嫌な彼を横目に鏡を見つめながら切る範囲を決めてそれ以外を横に流してピン留めしていれば。


静かに横に立った気配。


言わずもがな、彼しかいないのだけども。


上から下まで黒い装いの彼が鼻歌交じりに用意していた鋏を手に取り様々な角度から眺めその無謀とも言える提案。



「俺が切ってもいいよね?」


「すみません。何の拷問ですか?」



さも当然のように何危険な発言してるんだこの不器用男は。


彼が仕事以外の面で恐ろしく不器用な事は生活を共にしてよく理解している。


何をやらせても芸術的な仕上がりを見せる癖に好奇心は旺盛で、果敢にも挑んでくるから性質が悪い。


つい最近の例をあげれば私がネイルを施しているのを見て、今のように『塗らせて~』と無邪気な子供の様な顔でねだり、結果私の爪どころか指先や床の上まで芸術を披露したのだ。


そんな男に失敗したら取り返しのつかない前髪を?



「・・・・嫌です」


「大丈夫だって~、」


「絶対失敗する!」


「大丈夫。その時は責任取ってお嫁にもらってあげるから」


「私に損ばっかじゃないですか!?」


「損って・・・、じゃあ・・・失敗したら100万あげる」


「・・・・どうぞ、お好きなように」


「金絡めば即OK!?なんか成功しても文句つける気じゃないよね!?」


「いいから早く切ってくださいよ」



コロッと態度を変えた私にわざとらしく頬を膨らませた彼に、椅子に座ると早くしろ。と促して。


不満を見せつつ私の真ん前に座った彼がおもむろに手袋を外して鋏を握った。