触れる質感が人工的なものでもどかしいと感じる。


求めるのはこんなものじゃなく、手袋の感触でなく彼のぬくもりそのものなのに。


『怖くない』と言い返したくても出来ないのは、ここで嘘をつこうがどうにもならないと知っているから。


そして彼は私の反応に傷つこうが向上を目指して望んで何度もきっかけの時間を与えてくれているのだ。


それに建前の意地悪をかざして逃げている私は確かに臆病者。


でも・・・・彼の言うとおりだとも思う。


でも・・・・。


そんな葛藤に必死になって、言葉も視線も返すのを忘れて不動になっていれば。


静かに耳に入った溜め息。


その響きで急に心が冷やされ正気に戻る。


馬鹿みたいだ。


焦らして拒んで彼を困らせているくせに、呆れられたり手放されるような空気を感じると異常なくらいに心が焦るんだから。


今もそんな感覚にどこか必死で顔を上げたのに、その目で捉えた彼は悲哀でもなく怒るでもない表情で私を見つめる。


どちらかと言えば何か思考しているような。


眉根を寄せ、私の目ではなく顔全体を捉えるようにじっと見つめる姿を、逆に疑問を抱いて見つめ返せば。



「・・・・可愛いんだけどさぁ」


「・・・はっ?」


「うん、ロングヘア。・・・可愛いんだけど・・・老けてるよね」


「・・・・・・」


「うん、そうだ。納得・・・老けて見えるんだ」


「・・・・・今すぐ根元から切り落としてやる」




衝撃的な一言をまさかの反復してすっきりしたと言うように頷く男に一発かましたい。


でもそれ以上に精神的にくるように目の前で断髪式でもしてやろうかと、スッと立ち上がると鋏を求めて歩き出す。


当然慌てた様子の彼に腰からしがみつかれ阻止されたけど。





「すみませんねぇ。あなたより5歳も上の年増で」


「ちょーっ、ち、ちがっ・・」


「当然存じて私に手を出したキチガイ男だと思ってましたが、騙された。と言いたいのなら謝ります」


「そうじゃなくて!!誤解、誤解、」


「すみません、ごめんなさい、あなたがどう思っていたか知りませんがもう30になるおばさんですから」


「違うんだよぉ!おばさん思ってない!!思ってないからっ、ただ・・・・、前髪無いなぁって思ったんだよ!!」




前髪?


その言葉に確かめるようにしがみついている彼を見下ろすと、話を聞いてと言わんばかりの懇願顔。