Side 茜
不意に悲しくなった。
千麻ちゃんがいなくなったオフィスで今にも発狂したくなるくらいの葛藤を抱きながらPCに向かって。
それでもまだギリギリ残された感情を守るように閉じこもって。
こんな風にすれ違っても・・・・千麻ちゃんを失うのが恐かったんだ。
だからこそ、逃げるようにこの部屋を去った彼女を追えず。
今下手に引きとめてもお互いの傷つけあいの言葉しか出ないと自分の足を縫い付けた。
きっと彼女も一緒だと。
同じ様な事を思って、壊してしまう前に今は逃げたのだと。
そう思う気持ちは確かにあるのに・・・・・呪い。
彼女の最後に放った言葉が自分を酷く蝕んで。
『結婚しなければよかった』
今までの全てを否定する様な言葉に砕ける寸前まで突き刺さった。
信じたい気持ちはある。
俺の最低な疑いに防御しただけの言葉だと。
だけど自分の嫌な疑心暗鬼。
『本当に?・・・・本当は・・・・愛していないんじゃないか?』
『もう・・・見離しているんじゃないか?』
『最初から・・・・・今まで、全て全て嘘偽りな愛情だったんじゃないか?』
「違うっ・・・・・」
オフィスにはっきりと独り言の否定を返して頭を抱える。
息が苦しい。
心臓が酷く暴れて痛くて・・・。
嘘じゃない。
絶対に・・・・・あの感じた愛情は・・・・嘘じゃない。
はっきりと頭で響かせてゆっくりと息を吐くと目の前のPCの画面を見つめた。
文字や数字の羅列。
目が疲れそうな。
ああ、こういうタイミングにいつも千麻ちゃんはコーヒーを淹れてくれていたっけ。
そんな事を思って口の端を上げた瞬間。
悲しくなった。
痛いほど悲しく。
胸がざわめいて。
不安・・・・・。
絶望しそうな、そんな・・・・・瞬間。
デスクの端に静かにあった携帯が鳴って、暴れる心臓を宥めながら応答する。
表示で相手は分かっていて、そして内容も大かた予想がついた。
さっきの電話の後だ。
千麻ちゃんが泣きついて事情を語って、それに対してのお怒りの電話かと思った。
「はい、雛華・・・俺にも弁明ーーー」
『茜っ、○○病院来てっーーー』
「はっ?・・・・おい、雛華?何ーーー」
『早く!!千麻ちゃんが・・・・』
取り乱す雛華の声は久しぶりだと感じた。
でも・・・・俺も・・・・。
こんなに血の気が引いたのは・・・・・・久しぶりだった。