無情にも閉まった扉と下降する小さな密閉空間。


よろめいて壁に寄りかかれば力が抜けて座り込んだ。




「・・っ・・・ふっ・・・・ううっ・・・」




次から次へと涙が溢れて落ちる。


それでも彼から逃げたのはまだ彼を切れないから。


あのまま一緒にいたら本当に断ち切れてしまいそうで。


最後にぎりぎり繋いでいる細い細い希望の糸を守るように飛び出して。


彼に失望しないように自ら逃げた。


でも・・・・




「気持ち悪い・・・・・・」




つわりなのか・・・精神的な物なのか・・・・。


そっと自分のお腹に触れて確かめてまた涙が零れる。


笑って・・・・伝えるつもりだったのに。


どんどん息が出来ない。


好きなのに大きくしすぎた不安の海に沈んで冷たくて深い暗い所に引きずり込まれていく。


冷たくて冷たくて・・・・。


どこまでも沈んでいきそうな思考を遮るようにエレベーターが到着音を響かせて、ゆっくりと立ち上がると扉の前に立った。


ねぇ、


あり得ないことだけど、


この扉が開いたら・・・・


ばつの悪そうなあなたが立ってればいいのに。


そう思った。


それだけで・・・・・許せる気がした。







ふわりと風が巻き起こる。


そして開いた扉の先を見て口の端を上げる。





「馬鹿ね・・・・・・・千麻・・・」





いる筈ない。


彼は・・・・魔法使いでも何でもない。








それでも・・・・


あなたの不器用な嘘だらけの魔法が好きだった。