さすがに限界だ。
彼の行き過ぎた言葉の切り返しに本当に眩暈がして踵を返す。
当然彼が名前を呼びながら席を立つのを無視してデスクに行き、今ほど置いたばかりの鞄を握って入口に向かう。
それでも引き止めるように腕に絡み付いてきた手とかけられた声にキッと睨んで振り返ると、酷く動揺して揺れるグリーンと視線が絡む。
「千麻ちゃん・・・待って、」
「・・・何でですか?どうせあなたは私を疑ってるんでしょう?そうでしょうね。散々あなたを振り回して悩ませてきた女ですから」
「っ・・・そんなこと言ってない」
「言ってるんですよ!もう疲れたって、態度が、視線が、ぬくもりも全部全部・・・」
「・・っ・・それはっ・・・」
「怯えるように私を閉じ込めて・・・愛してると言いながら疑ってる・・・・、」
「千麻ちゃんだって、俺を信用しないで何も語らずいつだって俺を後回しだ!そんな風に繰り返されたらっ・・・・本当に俺を愛してくれてるのか不安になる・・・」
「・・っ・・・・・・・・・それが・・・・・あなたの本音ですか?」
ああ・・・・気持ち悪い。
「・・・・・」
黙っていられたら・・・・肯定に聞こえて・・・・。
愛してない。って聞こえて・・・・。
苦しい・・・・。
「・・・・・千麻ちゃんは・・・・・俺を愛してる?」
愛してなかったら・・・・・・・・。
この体に宿ったものは何なのだろう?
「・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・結婚なんてしなきゃよかった・・・・」
「・・っ・・・・」
「結婚なんてしなければ・・・・・愛した人に傷つけられるようなこんな時間なかった・・・・」
もう皮肉な笑みすら・・・・刻めない。
気持ち悪い。
耐え切れない。
そう判断して彼の手を振り切ると逃げるように部屋を出る。
もう・・・・引き止めるような名前の響きすら追ってこない。
なのに走って走って、エレベーターホールに走ってボタンを押す。
誰も追いかけて来ていないのに早く早くと心が急いて、その扉が開くと馬鹿みたいに素早く乗り込んで閉を押した。
ゆっくりと閉まる扉。
馬鹿な私。
怯えて逃げたくせに、どこかでまた朝のように彼が駆け込んでくるんじゃないかと思った。
そして・・・、
『ごめんね、千麻ちゃん・・・・』
そう言って、怒る私に困ったように笑ってご機嫌取りのようにキスするんじゃないかって。