だって、記憶したそれは一度意識を休めるように睡眠をはさんでも鮮明で。
濃厚濃密な記憶も明確なら、まだ体にその感覚も残る。
今は馴染んだ俺の服に身を包んだ彼女の細身の体の感触が肌に刻まれ残っている。
今はいつもの無表情。
でもその顔さえ熱っぽく姿を変えることも、興味なさげな淡々とした声音も誘惑的に変わる。
思い出すだけで・・・・・発情しそうな。
「・・・・どうします?飲みますか?」
「・・・・・飲む」
うっかりぼんやりと彼女との扇情的な記憶を反芻していれば、再度投げかけられた問いに現実に戻り。
返事を返しながらゆらりと彼女の隣に身を置いて手すりに寄りかかった。
それとほぼ同時にその身を動かしその場から離れ始めた彼女に、焦って引き止めるように腕を掴めば長い髪をさらりと揺らして振り返り見つめ上げてくる。
月明かりのせいかいつも以上に白く見える肌。
でも、赤く染まることも知っている。
「・・・・何でしょうか?」
「・・・どこ・・・行くの?」
さらりと無表情に問われ、寂しさ全開の子供のような確認を入れてしまえば、彼女が示すように視線を手すりの上のグラスに移しすぐに俺に戻した。
「飲まれると言われたのでグラスを取りに行こうかと」
「あっ・・・・、なるほど・・・」
納得すれば単純な答え。
一瞬、『気まずい』とか『後悔』とか、そんな感情で彼女が俺を避けているんじゃないかと懸念してすぐに早とちりだと理解。
それでも・・・
「・・・あの、」
「・・・うん」
「飲むのですよね?」
「うん」
「・・・・・じゃあ、この手を離していただけませんか?」
呆れたような表情と声で未だ自分を捉える俺の手に非難する。
だけども言われた言葉に反するように更にしっかり掴み返してクイッと軽く彼女を引き寄せた。
その力に半歩程彼女が俺に寄って、僅かに近づいた距離に小さく歓喜。
どれだけ・・・子供みたいな恋愛感情?
自分でも呆れてしまう。
「・・・グラス・・いいよ。千麻ちゃんの頂戴」
「・・・・・・・あなたと同じグラス使うなんて嫌なんですが」
「・・・・・・・・・・酷っ!!」
衝撃の一言。
ご丁寧に嫌悪するように顔をしかめて弾かれた言葉に軽く・・いやかなり傷つく。
同じグラスが嫌って・・・・俺に対して潔癖!?
間接キスとか以上に乱れてガツガツの2人だったよね!?
と、口にしなくても表情が語ってくれたらしい。
無表情で俺を見つめていた彼女が我慢の限界とばかりに噴き出しその口元を手で覆うと逆の手でグラスを手に持ち俺に差し出した。