「貴様、なんでこがあなもんをもっとるんじゃ。貴様が反戦運動の首謀者か!取り押さえろ!」

 時正君は軍人によりトラックの荷台から引きずり降ろされたが、激しく抵抗しトラックとは反対の方向に走る。

「待てー!」

「父ちゃん、はよう行くんじゃ」

 軍人に捕らわれた時正君が、地面に組み伏せられ大声で叫んだ。おじさんがトラックのアクセルを踏む。おばさんは荷台で身を乗り出し時正君の名を泣き叫ぶ。

「時正――!」

 私は泣きながら、おばさんの体を支えた。トラックは猛スピードで夜道を走る。

 荷台に残された時正君のカバン。

 軍人に取り押さえられた時正君の姿が、だんだん小さくなる。時正君のカバンを胸に抱きしめ、涙が溢れて止まらなかった。

 ◇

 ―8月6日深夜零時過ぎ、鉄道寮―

「お嬢さん、ほんまにここでええんね?」

「はい。時正君のお仲間に逢えば、何か思い出せる気がするの。お婆ちゃん……お世話になりました。今までありがとうございました。富さん色々ありがとうございました。おじさん……どうか御無事で」

「お嬢さん、わしらは時正の意思を継ぎ、行けるとこまでトラックを走らせるつもりじゃ。時正もきっと解放される」

 私はおじさんの言葉に頷く。

「音々ちゃん……。わしらと一緒にいかんね。その方が時正も安心するじゃろう」

「お婆ちゃん……。私は時正君の心を突き動かした桃弥という人に、どうしても逢わなけばいけないの。彼と逢えば、自分が誰なのか思い出せる気がするから」

「ほうか……。音々ちゃん、元気でのう。何が起きても音々ちゃんは強く生きるんじゃよ。これはおにぎりじゃ。時正のお仲間に食べさせてあげんさい」

 お婆ちゃんはおにぎりの入った包みを私に渡した。

「はい。お婆ちゃん、私は死なないよ。だから安心して。お婆ちゃんおにぎりありがとう。おじさん、夜が明ける前に早く県外に……」

「わかった。お嬢さんも気いつけてな」

「はい。さようなら」

 鉄道寮の前でトラックを見送る。
 トラックのエンジン音に、寮の窓にポツポツと明かりが灯る。

 建物の窓が次々と開き、数秒後、玄関ドアから数名の男子が外に飛び出した。

「時正!心配させんなや……。ね……ね……!?」

 そこには、携帯電話の画像に写っていた男子が、私を見つめ呆然と立ち尽くしていた。