「おー、春……」






先生は、ふと言葉に詰まりました。



私の名字を、もう忘れてしまったようです。





でも、私は驚きません。




先生が、本当は、ひとの名前を覚えるのが苦手だと、気づいていたからです。





生徒の名前を覚えるのも遅くて、顔と名前が一致していない子の名前は、なるべく呼ばないようにしているのを知っていました。




それに、私のように地味な生徒の名前は、ほとんど覚えていないのです。






だから私は、小さく、「春川です」と名乗ってあげました。





先生は少し気まずそうに笑い、「おう、春川。どした?」と首を傾げます。