「ん…?
なんだテメー…」


鋭い視線で私を見る彼。

ちょ、ちょっと待って!
私はただ助けただけだよ!


「なんでオレの下に女…
オレの下に女?」

「へ…?」


彼はそう言って、ハッと何かに気づいたように飛び上がって私から離れた。

い、いきなりなんなの!?


「おおおおおおお前!
なんでオレの下にいんだよ!」

「な、なんでって!
イスから落ちそうになったから助けただけだよ!」


顔を真っ赤にしながら動揺している彼は、まさしく…子供だ。


「つか、別に助けなくていいしよ!
オレに構わなくていいし、第一なんで体育館に行ってねーのかも問題だし、あーもう!」


ゴチャゴチャ言う彼を見ていると、ほんとにみんなから恐れられている不良には見えない。


「ふふっ」


おかしな状況に、つい笑いが零れた。


「なんで笑ってんだよ!」

「あはは!」


まだ顔を真っ赤にしたままの彼。
意外と純情なのかな?と勝手に想像してみる。


「つーか…お前やべーよ」

「へ?」

「お前…オレの女になるしかねーよ」


…ん?

少しの沈黙が流れる。


「えぇぇぇぇぇええ!?
なんでそうなるの!?」


気づいた瞬間に胸がドキドキした。
正直、ここまで真っ直ぐ言われたことがなかった。


「い、いいからオレの女になれっての!」

「な、なんでいきなり…」

「それは…だな…」


照れながら目を逸らして話を続ける。


「…お前が、初めて…
触れた女だからだよ」

「……?」


意味がわかりません!
まったくわかりません!
え?え?
どういうことなの!?


「おいお前、名前は?」

「へ!?
あっ、吉谷恋湖です…」

「恋湖な。
オレ如月淕。淕って呼べ」


やっぱり如月淕だったんだ…

あまりにもみんなが抱いている印象と違いすぎて戸惑う私。

やっぱり悪い人なんかじゃないよ。


「お前今日ヒマか?」

「えっ、あの…」

「ヒマだよな?」


ううっ…それ聞いてる意味ない…!


「はい…」

「学校終わったら校門で待ってる」


淕はそれだけ言って教室を後にした。

な、なんかすごいことになってる気が…

ポツンと1人残された教室で、私は一瞬だった出来事のせいで動けずにいた。
そして、入学式終わりのチャイムが鳴った。