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「おはよう、千葉さん」
ガヤガヤと騒がしい朝休み。
そんな中、ふと隣に気配を感じたと思えば、そんな声がした。
挨拶されたのなんて、いつぶりだろう。
一年の最初の頃はたまにされることはあったけど、私が返事をしないうちに、当たり前だけど、そんな人はいなくなった。
それはクラス替えがあった二年になっても変わらなかった。
誰だろうと考えながら視線だけを声がした方に向ければ、思わず固まった。
クラスメートと関わりを持たないせいでいまいち全員を認識してない私でも、この人は知ってた。
……いつも一岡くんと一緒にいる人だ。
名前は思い出せない。
だけど程よく焼け小麦色の肌に、人懐っこい笑み。
クラスの中心でいつも楽しそうに騒いでて、一岡くんを困ったように笑わせてる人。
「おはよう、千葉さん」
返事をしないのを聞こえなかったからと思ったのか、彼はもう一度私に挨拶をした。
その声の大きさと、人気者が私に挨拶をするという珍しさから、教室中の視線が集中して居心地が悪い。