「……はぁ。」

彼女に向けていた目を背ける。
彼女の真剣な眼差しはスケッチブックに注がれていた。
私はと言えば、「来てね。」の一言で召喚されたのだが。
スケッチブックに一定のリズムでものを描き込む。
シャッシャッという音は不快ではなく、心地良いので。
「このままでもいいかなぁ……。」なんて洩らしてみたり。

「よし。先輩来てくれたんだね。」

「……ちゃんと来るに決まってるじゃない。それで、なんなの? 私、なんだか放置されてたんだけど?」

「あぁ、ごめんね。どうしても仕上げたかったから。」

舌をペロッと出し謝罪する分、特に悪いとは思っていないのだろう。
そんな後輩の頭をコツんと軽く一発。

「いたっ。ヒドい。謝ったでしょ?」

「あのねぇ。君。先輩に対して許可も取らずにタメ口使っといて。それに加えて誠心誠意謝れないの? そんなんじゃやってけないわよ。」

「はぁーい……。」

「まぁ良いけどさ……。それで? 君が私を呼んだ理由ってなんなの?」

思い出したかのように彼女はポンッと手を打った。

「そうだそうだ。そうだった。いや待て、準備が。」

ブツブツ言いながら彼女は私を呼び出した場所の美術予備室をウロウロしていた。
そう言えば思ってたけど、美術予備室ってなんなのかしら。
辺りを見渡せばここで生活出来るんじゃないかってくらい、最低限度のものが揃っているようだし。

「先輩? あまりジロジロ見ないでね。」

「あ、あぁ。ごめんなさい。」