何もかも吸い込まれた感じ。


電車の時間なんてこれっぽっちも気にならなかった。

体が勝手に中心へ足が進む。


もっと、もっと近くで聞きたい。


人の集まりをかき分け、一番前まで来てしまった。

階段の段に腰掛け弾き語りをしている男の人。


無造作にセットされたくせっ毛のような
こげ茶の髪、キリッとした眉に片方だけが二重な瞳。



ど、どどどどどどどうしよう。


超かっこいい。


あたしは自分でわかるほど体が熱くなっていた。


周りで聞いている人達は小さい子からおじいちゃんまで。
年代が幅広かった。


自作っぽい歌を歌い終わり、
みんなが知っているバラードソングをまた歌い始めた。


ほんとに聞き惚れるとはこういうことなんだろう。


全部の曲を歌い終わったのか、
その彼は片付けをし始めた。

近くで聞いていたおじいちゃんがお金を渡していた。
ギターを置いた彼はおじいちゃんの手を取り、

「大丈夫です。また来週もここで歌いますから、ぜひ来てください。」
とお金を貰うのを断っていた。