1年3組 吉田 灯里。
私のこの1年間は、とても楽しいものではなかった。
せっかく、中学生になったのに…
全然楽しくなかった。
よくよく考えてみれば、バチがあたったのかな?と思う時もあった。
でも、やっぱり辛かったな。苦しかったな。
初めての制服。初めての校舎。初めてのクラス。小6まで伸ばしていた髪は、バッサリとショートカットに。
憧れていた中学生は、「初めて」がたくさんあった。
小6の頃は、いとこのお姉ちゃんが制服を着て学校に向かって行く後ろ姿を見るたびに、早く中学生になりたくて仕方なかった。
憧れの制服に身を包み、席に座る。
私は‘‘よしだ”だから、窓側の後ろの席だった。
白髪混じりの男の先生が教室に入って来た。40代半ばくらいだろうか。
心がウッキウキなのに、冷静に歳を予想する自分に、フッと笑ってしまう。
先生が出席を確認していく。
「山下胡桃。」
私の前の席の子が呼ばれる。
胡桃ちゃんっていうんだ。
後で、話しかけてみようかな。
私は、人見知りだから勇気いるなぁ。
私の名前も呼ばれ、入学式の会場に向かう為に、全員廊下に整列するように指示される。
一斉に皆が席を立つ。
私も、続いて廊下に出る。
列に合うよう立っていたら、胡桃ちゃんも教室から出てきた。
胡桃ちゃんがチラッと私を見た。
(ん?)
…。ちょっと気になったけど、まあいっか。
しばらくして、胡桃ちゃんがバッっと振り返って私の方に手を伸ばしてきた。
「っ⁉︎」
え、何々〜汗
胡桃ちゃんの手は、私の背中の方に回ってきて、私の制服の襟を直してくれた。
「襟立ってたよ♪さっきからずっと気になって笑」
え。マジで?
「あ、あああありがとう。」
「うん!」
胡桃ちゃんはニコッとして、また前に向き直った。
あぁ〜。マジかぁ〜。
ずっと襟立ってたままだったなんて…。
恥ずかしすぎるっ!
それにしても、胡桃ちゃん良い人だったなぁ。
目もパッチリして、髪もちょっと茶色ががってて可愛い。
やっぱり仲良くなりたい!
よしっ!絶対話しかけるぞ〜!
「おーい、静かに歩けよー。」
決心した直後に先生の声が聞こえて、列が動き出した。
入学式も無事に終わり、教室に戻った。
先生がこの後の行動を細かく指示し、教室を去った。
休憩時間。私は、思い切って前の席の子に話しかけた。
「あの、さっきは襟直してくれてありがとう。えっと…。」
やばい。名前忘れた。決心して、入学式挟んだから、名前を忘れてしまった。
「えっと、名前なんていうの?」
その子は柔らかく笑って、
「やましたくるみ、だよ!えっと確か、よしだあかりちゃんだよね?よろしくね。」
おお〜。私の名前を1回で当てる人初めて。皆結構読めないんだよね…。
「うん!よろしくね!」
それから、私達は色んな事を話した。
どこの小学校から来たの?とか、中学生になった今どんな気持ちとか。
共通点はあまり見つからなかったけど、まあこれからだよね。これからもっと仲良くなるから焦らなくても大丈夫だよね。
前日は、友達が出来るだろうかとか考えてあんまり寝れなかった。
「あの子も、私と同じ小学校だよ!」
胡桃ちゃんが前の席を指差す。
へえ〜。そうなんだ。名前なんていうのかな。
まあ、後でいっか。今日とりあえず、友達1人は出来たし。ちょっとずつ皆と距離を縮めていけたら良いかな。
今日は、入学式だけだから午前中に帰った。
中学校生活楽しくなりそう!