仁科さんが病室から出ていくと、真野社長が皇を見た。

「城ノ内」

 その顔は今まで見たことがないくらい厳しくて、私は息を飲んだ。


「お前、本当にあいつを殺すつもりだったのか」


 銃の引き金に指をかけた、皇の姿を思い出した。

 あれは、本気、だった?本気で、人を殺すつもりだったの?
 ーー私の、ために。


 皇が真野社長から目を逸らす。それも、珍しい姿だった。

「BNPに、迷惑は掛けない」

「馬鹿野郎!俺は友人として言ってるんだ!」

 真野社長が、怒鳴った。
 あまりに珍しい光景に私は茫然として、隣に立つ桜里の手を握り締める。桜里は黙って真野社長の言葉を促すように頷いた。真野社長は苦しそうに、声を絞り出す。


「俺じゃ止められないんだ。お前が目の前で誰かを傷つけても、止められるのは、梶原ちゃんだけだ。だけど、それじゃ駄目なんだよ!お前、もっと自分を大事にしろ……!」


 言葉を詰まらせて、背中を向けた真野社長。
 皇は、しばらくその姿を見つめていて。

 それから、彼に近寄った。


「ああ、そうだな。……すまない、真野」

 後ろからその肩に、額を押し付けて呟いた。
 

 ーー皇。あなたを想ってくれる人が、ここにも確かに居るんだね。

 私はなんだか胸が詰まって、潤みそうになる瞳で二人を見つめて思う。


「城ノ内君にあの変態野郎を殺すことなんてできませんよ」

 私の隣で桜里がフン、と鼻を鳴らした。


「トドメは僕が刺すつもりでしたから」


……一番の危険思想家は貴方です、お父さん。