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 その後ーー

 男は桜里のシークレットサービスによって取り押さえられた。
 しばらくして警察が来て、男が息も切れ切れに

「あいつに殺される!銃で撃たれそうになったんだぞ!」

 なんて皇を指差したときには、ひやっとしたけれど。
 真野社長がにこにこと、

「妄想って、怖いですね。ね、刑事さん」

 なんて有無を言わさず完全武装の笑顔で言い切ると、

「そうですね、あっはっは」

 なんて警察の人たちは、軽く丸め込まれていた。護衛の人達も微妙に視線を逸らせたまま黙っている。
 そりゃあ桜里をよく知らない人達なら、こんな日本のど真ん中、民間人が銃を持っているなんて思わないに違いない。


 そして私は検査のために病院に運ばれた。
 後から病室を訪ねて来た、やたら美形な刑事さんが真野社長と皇を見て、

「警部の仁科です。警察としては全くお役に立てず、お恥ずかしい限りですが、間に合って良かった」

と言って複雑そうに微笑んで。

「いえ……色々ご尽力頂いて、ありがとうございました」

 二人は彼に深々と頭を下げていた。
 彼が水瀬医師の友人で、冴木先生や水瀬先生も私の救出の為に協力してくれたのだと聞かされて、

「本当に、ありがとうございます」

と私も頭を下げたなら、彼はやっと嬉しそうに微笑んでくれた。
 けれどその仁科警部は桜里を見て、軽く目を見開いて。

「オーリ?」

「やあ、久しぶりですね、千華」

 彼の視線に桜里も手を上げた。

「知り合いか?」

 皇が聞けば、桜里は頷く。

「彼が一時期民間の警備会社に就職していた時に、僕の警護をしてもらった事がありまして。千華、警察に戻ったんですね」

「ええ、妻が警視庁に勤めているので。……オーリの娘さんというのは彼女でしたか」

 世間は狭い。そう言うと、桜里と皇を、仁科警部が見比べて。


「……拳銃ってまさか」


 にっこり、美しい笑顔がなぜか怖い。

「オーリ、あなたのSSはともかく、あなた自身には拳銃の携帯許可はありませんよね」

「なんの話でしょう?」

 負けずに桜里も隙のない笑顔。

……美形が揃って笑顔で化かし合い。なんだか病室がキラキラしてるんですけど。
 この人たち、うちの俳優陣レベルの演技力だわ。


 やがて仁科警部は溜息混じりに言った。

「……まあいいでしょう。妄想男の戯言だと報告しておきます。城ノ内さんは本当ならいささか過剰防衛ではありますが、それもこちらで処理しておきます」


 真野社長がまた深々と頭を下げて。
 私は彼らが事務処理について話している間に、こっそり桜里に聞いてみた。

「無許可だったの!?なんで拳銃なんて持ち込んだの?」

「シークレットサービスにちょっと借りたんですよ。あわよくばこれで城ノ内君の息の根を止めてやろうと……。ああいえ、護身用ですよ、護身用」

 本音のもれちゃった愛する父に、白い目をむける私に気づいたのか、桜里は慌てて否定した。


……ほんとにいつか、皇ってば桜里に撃たれちゃうんじゃないだろうか。