その瞬間は、何も考えられず。
 ただ、言葉を失った。

 ベッドに横たわる雪姫は真っ白なドレスを着ていて。
 整えられた化粧に、真っ赤な口紅を引かれて、その瞼は閉じられたまま。
 美しく着飾らせようとしているのとは裏腹に、胸の上で組まれた両手とドレスの裾からのぞく両足首は、縛られたであろう痕が真っ赤に残っていて、その矛盾さに恐怖さえ感じる。

 雪姫は、綺麗だった。

 だけど、こんなのはーーただ、綺麗な人形だ。


 そのあまりの雪姫の静かさに俺はふらりと近寄った。

 雪姫。


「梶原、ちゃ……」

 俺の後ろから、真野がぐ、と喉を鳴らして。

「雪姫っ……!」

 同じく飛び込んで来た白鳥が叫んだ。俺は構わずに進む。


「雪姫、おいコラ」


 いくら白雪姫だからって、本当に眠るなんてシャレにならねえんだよ。

「寝てんじゃねえ。起きろ、馬鹿」


 目を、開けろ。

 
 あと一歩で、雪姫に近づける、そう思った瞬間。



「僕の雪姫ちゃんに触るな!」


 あの男が、向かい側の扉の前に立っていた。

 人間としての雪姫を、彼女の人格を、冒涜しているだけのーー醜悪な欲望の結果。
 コイツがこんな風に、扱われて良い訳が無い。俺の一番大事な女が、こんな風に扱われてーー

 良いわけが、無いんだ。