side 皇

 俺と真野は、水瀬の友人からメールで送られてきた住所に向かっていた。
 運転する俺の横で、真野が携帯で誰かと話をしている。

「城ノ内、“彼”が来てる」

 どうやら事務所からの電話らしい。

「彼?」

 真野がスピーカーに切り替えた途端、携帯から聞こえたその声は。


『城ノ内君。一体どういうことか、説明してもらいたいものですね』


 穏やかで丁寧な口調であるにも関わらず、怒りに満ちて威圧的なのがよくわかる。その姿が、容易に思い浮かんだ。

 ああ、日本に来てたのか。

 電話の向こうの男は、俺に挑むように言葉を重ねる。


『BNPに来てみたら、僕の雪姫がどこかの変態野郎に誘拐されたと聞いたのですが。僕は笑えない冗談は嫌いなんですよ』

「奇遇だな、俺もだ。それからあんたの雪姫でなく、俺の女だ」

 俺はウィンカーを出しながら、電話の声に答えた。


 白鳥桜里ーー雪姫の実父。
 化け物級の若さと美貌を誇る、ブランド“エアリエル”の専属モデル、兼エアリエル日本一号店の責任者。

 そういえばこいつは山ほど護衛を抱えてるんだっけ。


「丁度良い。アンタんとこの手駒を貸せ、スーパーモデルさん」

『城ノ内くーー』

「頼む」

 俺の一言に、相手が息を吞んだ。
 俺が頼み事をするのがそんなに意外か。
 けれど今はなり振り構ってはいられない。