ひとしきりの熱が冷めた後。
 私は飲み物を持って来てくれた皇にお礼を言って受け取ると、ずっと気になっていた彼の事を聞いた。


「要は、大丈夫だった?」


 皇は顔をしかめたけど、結局は頷いて私の疑問に答えてくれる。

「ああ、あいつの怪我も大した事無いし、検査も異常無いそうだ」

 それにホッとして、おずおずと皇を見上げる。

「私、また何か迷惑をかけてませんか」


 彼は面食らったように私を見下ろして。
 首を横に振った。


「……いや、今回はむしろ、月島の方が責任を感じてたな。一緒に居たのに守れなかったって」


 そんな。あんなの防ぎようが無い。
 それにアイツの狙いは私だったんだから、要はただ巻き込まれただけなんだ。

 そう言えば、皇は苦笑して私の頭を抱えた。

「お前のせいじゃない。強いて言うなら、知ってた俺だってもっと警戒すべきだった」

「皇は気をつけてくれてた」


 今なら分かる。
 私がカフェに居た時、相手が要だと分かってほっとしてたのも。
 旅館からタクシーを使えって言ってたのも。
 全部皇は、私に気づかせないように、私を守ろうとしてた。


「心配かけて、ごめんなさい」


 小さくなった言葉に、皇はくしゃりと私の髪をかき回して視線を揺らした。


「お前が居ないと、俺は」


 言い淀んだ言葉は、最後まで発せられる事無く。
 彼自身も自分の危うさに戸惑っているのだと気づいた。


「……俺が、怖いか?」


 私は首を横に振る。
 確かに、戸惑いはした。でも。


「……愛してる」


 信じてる。


 それだけを伝えたくて、彼を見た。
 皇は私を見つめ返して、そのまっすぐな視線に、射抜かれる。


「……俺を犯罪者にするなよ」


 苦笑いで冗談に紛れさせた言葉に、あの瞬間がまた、脳裏に浮かんで。
 泣きたくなるのを必死で隠した。

「……今でも充分セクハラという犯罪を犯してます」

「言いやがったな、コラ」


 ごめんね、は違う。
 ありがとう、も違う。

 やっぱり、


「愛してる、皇」


 抱き寄せられた身体はすんなりと皇の腕に収まった。


「月島には、落ち着いたら会えば良い」


 落ち着かせるように、宥めるように、私にそう言って微笑む彼に。
 私は静かに頷いた。